シンガポールにおける日本映画の存在感
2009.03.26
【日本映画、早くも昨年公開本数に並ぶ勢い】
Yahoo! SingaporeからMovieのセクションへ進むと、シンガポールでは「おくりびと」「容疑者Xの献身」「K-20」の日本映画3本が上映中であることが分かります(3月16日現在)。さらに近日中に「デトロイト・メタル・シティ」「ハンサム・スーツ」「クライマーズ・ハイ」が公開されます。昨年は「花より男子ファイナル」や「20世紀少年」「崖の上のポニョ」など年5~6本程度が公開されただけと記憶していますので、わずか3ヶ月にして公開本数が早くも昨年に並ぶ勢いです。
「おくりびと」はアカデミー賞外国映画賞を獲得、「容疑者Xの献身」は東野圭吾原作で、人気テレビドラマの続編、「K-20」は日本人と台湾人を両親に持つ金城武主演、「デトロイト・メタル・シティ」はデスノートで人気となった松山ケンイチ主演で、先行して上映された香港・台湾でもヒットを記録など、それぞれにシンガポール公開の理由が思い当たります。
劇場に足を運んでもらうには魅力的な先行情報が必要ですが、原作や主演俳優がシンガポールで人気があり、中華圏の芸能メディアの中心である台湾・香港から良い評価が伝わるのが効果的なプロモーションと考えられます。実際に「デトロイト・メタル・シティ」を観たいと言った友人は中華系住民で台湾発の中国語媒体からその情報を得たと言っています。
さて日本映画はなぜシンガポールで増加しているのでしょう。まずは日本国内の邦画の活況が挙げられます。社団法人日本映画製作者連盟のウェブサイトによると、2008年の公開洋画本数388本に対して、邦画は418本。興行収入シェアは洋画約40%、邦画は約60%と一時期の洋画優勢を邦画が逆転したとのこと。その日本映画の勢いがシンガポールにも波及してきた感があります。シンガポール側の要因では、数年前までは心理的に遠く離れていた日本の情報がインターネットの普及で簡単に集められるようになったこと、昨年夏頃までの好景気や所得増に伴って日本への渡航者が増加したこと(JNTOの統計資料によると昨年1月~11月までのシンガポール人の日本への渡航者は前年比15%増の累計14万人。シンガポール人の人口を約360万人と仮定すると、全体の約4%。韓国・台湾には及ばないが東南アジア内では非常に高い比率といえる)、これらによって日本社会・文化への理解が進んだことが考えられます。またシネマコンプレックスの競争が激しくなり、米国からのBlockbuster(映画用語。多額の製作費をかけ、大ヒットが予想される作品)だけでは、競合との差別化が図れなくなった映画館主が日本作品を選好して上映していることも考えられます。「クライマーズ・ハイ」は大手配給会社Golden Villageが運営しているCinema Europaのみで単館上映です。この映画館はその名の通り、ヨーロッパなど世界各国の質的に優れた作品を紹介するためものです。
【メインプレイヤーには遠い道のり】
とはいえ、残念ながら日本映画は当地での主なプレイヤーになっているわけではありません。Blockbusterとして紹介される作品は皆無であり、週末に日本映画を鑑賞しに出かけても観客は数人程度しか入っていないのが現状です。シンガポールの近年の年間興業収入トップ10は米国映画が8~9作品を、残り1~2作品を中国映画が占めています。トップ10に食い込むには最低250万ドル程度の興行収入が必要で、平均入場料を8ドルと仮定すると約31万人、シンガポール総人口460万人の7%弱を動員する必要があります、日本の作品は、こうした社会現象を生み出すまでには至っていません。現在の日本映画のポジションは、人と違う映画を探して観る人々向けのニッチな存在に留まっています。
昨年の10歳代シンガポール人へのインタビューでの週末の過ごし方は「アウトドア・スポーツ」「カフェ」「映画」がトップ3でした。シンガポールフィルムコミッションによると年間入場者は1,600万人以上、市場規模は12,800万ドル以上と推計されています。このようなシンガポール人の映画好きを考えると、海賊版対策や著作権や肖像権などの問題を考慮に入れつつ、日本の映画関係者はシンガポール進出を真剣に取り組んでもいいのではないでしょうか。
【一邦画ファンとしての今後への期待】
多くのシンガポール人は英語か中国語の映画であれば字幕なしで楽しめるものの、日本映画は字幕が必要で、その準備に伴う費用や時間も負担となります。また20歳代以下の若者を中心に欧米的価値観が支配的になるなか、時に異質で特別な日本文化が理解されづらい背景があります。
しかし各民族の宗教特性や各国の表現規制を配慮しつつ、作品中にプロダクト・プレイスメント(作品中に企業の商品を登場させる宣伝広告の方法)を組み込み、アジア市場を狙う日本製品のイメージ戦略に寄与するなどアジア展開を視野に入れたコンテンツ作りが今後日本のソフトパワーを誇示し、日本の産業全体の牽引役となるために重要となってくるのは間違いありません。
2003年に公開され、日本国内最大の興行収入記録を打ち立てた「踊る大捜査線」。この続編が製作されることが昨年発表されました。これまでのシリーズの伏線を使い、国内の既存ファンを楽しませる仕掛けも重要ですが、日本のみに通用する要素を最低限に抑えてアジア展開を見据えて製作してほしいところです。数年後英語タイトルである「BAYSIDE SHAKEDOWN」がシンガポールなどのアジア全域で公開され、劇中で日本製のコンピュータやクルマがカッコ良く登場するシーンをひとりのファンとして楽しみに待ちたいと思います。
シンガポール駐在 橋本樹一郎



