中東諸国の祝日の過ごし方
2009.04.21
日経リサーチでは、世界各地の文化や流行、社会事情などを収集するため海外からの留学生(コミュニケーション・アンバサダー、Communication Ambassador、通称「CA」)に、様々なテーマで現地の情報を伝えてもらっています。
今回は、「中東諸国の日常生活」の一端を、祝日を例にしてイエメン出身のワヒーブさんとイラン出身のアリさんに紹介してもらいました。
イエメンの祝日
まずはワヒーブさんによるイエメンの祝日の過ごし方についてのレポートです。
イエメンのカレンダーの中で、最も重要な日の一つが“Eid Al-Fitr”(イード・アル・フィトル)。イエメンだけでなく、イスラム教徒の多い国では、この日は一年のなかで非常に重要な意味があります。(写真はイエメンの首都サヌア)
Eid Al-Fitrは「断食明けのお祭り」を意味していて、ラマダン(断食の月)の翌月に行われる祝祭のことです。このイベントは、ラマダンの一ヶ月間、断食を通じて祈りを捧げた人々に対して、神様から与えられる恵みを祝うためのものです。この日はイスラム教徒の人々にとって精神的に重要な意味合いを持つだけでなく、家族や友人とともに祝い、楽しむ機会でもあるそうです。ちなみに2009年は太陽暦の8月22日から9月20日までがラマダン。断食明けの祭典は、9月21日に始まります。ヒジュラ暦(太陰暦)を用いているイエメンでは、毎年11日ずつラマダンの時期やEid Al-Fitrの時期が太陽暦とずれていきます。 入念な準備
Eid Al-Fitrの準備は、ラマダン月の最中から始まります。この月にボーナスをもらう人も多く、お店でも特別営業を行います。お祝いの期間に備えて新しく家具を買ったり、家の一部をリノベーションする人も多いそうです。とくに子供たちがEidの日にだけ着る新しい服を買うのも大事な準備の一つです。日本で言うと年末商戦のような感じでしょうか。お店を営む人たちにとっては空腹と戦いながら書き入れ時を迎えるんですね。
喜捨とは?
イエメンをはじめとするイスラム教国には、近所の人や貧しい人々にお金や洋服の世話をする習慣が根付いています。Eidの日の前には、Zakat(ザカット、喜捨)といって、全てのイスラム教徒が宗教的な義務として貧しい人々にお金を渡す習慣があります。お金持ちであればあるほど、より多くのお金を喜捨することが期待されます。貧しい地域でさえ、このイスラムの教えを遵守しているそうです。
身支度を整えて礼拝へ
Eid dayの日は、家族全員が日の出前の早朝に起きだして、シャワーを浴びて新しい洋服に着替え、朝食をとって香水をつけます。そして、家族でモスクや広場に出かけ、皆でEidの祈りを捧げます。左の写真はイエメンのタイズ地域でマイマットを持参して祈る人々です。
この日の礼拝では、“イマーム”と呼ばれるイスラム教の導師が、友人や家族、親戚に対して正直で誠実で優しい心を持つように説きます。祈りを終えた人々は、Eidを迎えたことを感謝して、家族同士握手やキスでお祝いの気持ちを表現します。
イエメンでも若者は年配の親戚を敬うものとされており、とくに年配の女性の親戚を訪ねて敬意を表すそうです。年始のご挨拶まわり、といったところでしょうか。
Eidには、近所に住む親戚や子供たちが訪ねてくることもあります。訪ねる人も訪ねられる人も甘いお菓子の詰め合わせやお小遣いをプレゼントし合うそうです。
右の写真はEidの前夜に子供たちが訪ねてくるのに備えてお菓子の袋詰めの準備をしている様子です。
左の写真は、家族やお客様からお小遣いをもらった子供たち。この「お年玉」でほしかったものを買うのが楽しみのようです。
自宅の応接間は伝統的な様式で内装が施され、お客様をお迎えできるように整えられます。正午までに家族はランチを共にします。午後はそれぞれ思い思いに過ごします。テーマパークに家族みんなで出かける人もいれば、郊外にピクニックに出かけたり、家族と自宅で過ごしたりする人もいます。Eid Al-Fitrのお祝いは3日間続き、人々はこの特別な日々を家族と共に過ごすのです。 イランの新年
続いては、アリさんによるイランの新年のお祝いについてのレポートです。
イランの新年“Nowruz”(ノウルーズ)は、ペルシア語で「新たなる日」という意味。イランの人々は、春が訪れ、新年の第一日目であるこの日を3000年もの間にわたってお祝いしています。かつてイランの人々はゾロアスター教を信仰しており、もともとゾロアスター教の休日だったNowruzを、国教がイスラム教になった今も祝い続けているそうです。巨大な国家だったペルシア帝国時代からの伝統なので、当時帝国の支配下にあった中国の一部、ボスニア、アルバニアまでも含む中央アジア、西アジア、南アジアなど多くの国々で、今もNowruzをお祝いしています。
Nowruzは天文学でいう「春分点」の日にあたります。この日は、日本の「春分の日」と同じ日。イランの文化では、春や自然の再生というのは非常に重要視されているそうです。
新年の準備
新年の前月にあたる「エスファンド」は、一年のうちでNowruzの準備でもっとも忙しい月となります。日本が12月に「師走」を過ごすのと少し似ていませんか。
“Khoune Takuni”とは家の大掃除のこと。新年を迎えるにあたり最も重要な準備と言えます。この時期には家族総出で窓を拭き、壁を塗り替え、家に飾り付けを施し、カーペットを掃除しているのを目にすることができるそうです。上・左の写真は、アリさんのご両親。アイロンがけに余念がありません。右はお父さんが窓拭きをしている様子です。
イランではNowruzを迎えるにあたり、少なくとも洋服をひとそろえ新しく購入するのが慣わしになっています。というのも、「新年が明けると汚れが取り除かれ、すべてのことが一新される」と信じているからです。新年を迎えるために新品の洋服に身を包むということのようですね。 洋服、フルーツ、お菓子はNowruzの際に人々が必ず買うもので、このとき商店や市場は最も繁盛します。左は商店で買い物をする女性たち。
イランの「正月飾り」
Nowruzには、一族の長老の家に集まってテーブルを囲み、神様に祈りをささげ、贈り物を交換し合います。テーブルにはペルシア文字で“Sin”が頭につく7つの品物が並べられます。これをHaft Sin(7つの“Sin”)といい、一つひとつに意味が込められています。サブゼと呼ばれる小麦や豆を発芽させたもの(再生を象徴)、小麦の胚芽で作ったお菓子の一種サマヌ(豊かさを象徴)、ぐみの実を乾燥させたもの(愛を象徴)、にんにく(薬を象徴)、スーマックと呼ばれるうるしの仲間(日の出の色を象徴)、りんご(美容と健康を象徴)、酢(年齢と忍耐)が、その7つ。他にもコーランや鏡、金魚などを並べて、豪華にテーブルを彩り、繁栄を祈ります。日本でいうと門松やしめなわ、鏡餅を飾るのと似ていますね。
家族と共に
伝統的にNowruzのお祝いは人を訪問することから始まるのが習慣です。まずは家族の年長者、それからその他の家族、そして最後に友達を訪ねます。通常、最初に若者が年長者を訪問し、年長者はその後に若い世代を訪ね返します。お客様にはペストリーやクッキー、新鮮なフルーツ、ピスタチオやドライフルーツがふるまわれます。子供たちは特に新札や新しいコインをプレゼントされるので、とても楽しみにしているようです。
忙しく過ぎるNowruzですが、最後の日の13日目は“Sizdah Bedar”(意味は「野外での行事」)を行います。具体的には家族でピクニックに出かけて音楽やダンス、スポーツやゲームを楽しむそうです。時期的にも、日本の「お花見」の光景と少し似ているかもしれませんね。
イエメンもイランも、ラマダン明けや新年を迎えるにあたって家をきれいにし、大事な家族とともに過ごすところは日本と同じですね。自分たちの信仰を大事にしながら伝統を守って生活する人々の様子を垣間見ることができました。
中東の国々の宗教と密接に関わった日常生活は、日本人にとってなかなかなじみのないものかもしれませんが、今回ご紹介いただいた年中行事の様子から、いくつか日本との共通点を見出すことができました。地域や宗教に関わらず、一年の門出を祝うというスピリットは似たところがありますね。
※写真は本人の了解を得て掲載しています。
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国際調査グループ 井上弘喜



