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笑顔が顧客満足を高める理由(ワケ)

2010.07.15

店員の明るい笑顔は、店員だけでなく店の評価にも好印象を与える。これは日経リサーチが実施した多くのCS(顧客満足度)調査やミステリーショッパーリサーチ(店頭観察調査)からも裏付けられる顧客満足度向上の重要なポイントである。

接客を重視している会社では、すでに店員やサービス部門のスタッフに笑顔の対応を積極的に指導している。たとえば、スタッフが笑顔を心がけられるようにバックヤードから接客スペースに出るところに鏡を置いたり、コールセンターの各ブースの前に鏡を掛けたりしている企業がある。口角(唇の両端)の角度や歯の見せ方まで細かく規定している企業もあるというからその取り組みは本格的である。
オムロンは、2009年2月にリアルタイム笑顔度センサ「スマイルスキャン」を発売し、導入した企業で効果が確認されたという。

それでは、なぜ「笑顔」が顧客満足の向上にとって大切なのだろうか。当たり前と思われる事柄をあえて疑問視してみることもコンシューマーインサイトの究明には必要なことだと思う。笑顔が顧客満足につながるプロセスが解明されRTB(reason to believe)に確信が得られれば、笑顔をより実践論としてCS対策やビジネス・接客マナーとして教育するきっかけにもなる。
そこで、近年話題になっている脳科学から顔や笑顔に関連する話題を拾ってみた。

入店したお客は店員の顔に注目する

まずヒトは、顔に対して特別な反応をするという。
人間の脳は顔を認識する「顔ニューロン」という神経回路があり、顔のようなものが目に入ると敏感に反応する。顔ニューロンが働き始めるのは生後わずか2週間といわれていて、母親の顔を認識、その表情を見極めるという行為の中で発達する。笑顔の認識もこの頃から始まるらしい。一方で、危害を加えるヒトや猛獣の脅威から逃れるためにも顔の表情を的確に識別することが生存の条件であったため、その神経回路が発達したようだ。
よく取り上げられる話題に、ホンダのバイクの製品開発がある。それは、ホンダが脳科学を製品開発に応用し、正面から見ると怒った人のように見えるデザインのバイクを展示会で発表したことだ。正面衝突しそうな状況で、バイクが向かってくるのを相手の運転者にいち早く気づかせ、事故を防げないかというのが開発のきっかけだという(2006年11月6日付日本経済新聞朝刊)。
では、店内に入ったお客は、店員の顔に対してどのような反応を起こすだろう。バイクと出遭った運転手ほどの切迫感はないとしても、店へのワクワク感や、期待が裏切られないだろうかという一抹の不安感から、とりわけ入店時は、お客にとっても緊張感が高まる瞬間となる。そのとき、お客の目は顔ニューロンの働きで店員の顔に注がれる。そこに笑顔があれば、瞬時のうちに「危険の解除」「安心・安全」のメッセージとして受け取り、相手(店員)との間に好ましいコンタクトが生まれることになる。

笑顔はお客に伝播する

次の段階で注目されるのが、「ミラーニューロン」の存在である。
ミラーニューロンとは、ヒトや霊長類に備わる行動で、他のヒト(や霊長類)の行動に対して、まるで自身が同じ活動をしているかのように"鏡"のような活動を促す神経細胞のこと。
周囲にいる人のあくびがうつることがある。気分の悪くなった人がいると自分の気分も悪くなるような気持ちになる。相手が腕組をするとつい同じように腕組をしてしまう。これらはミラーニューロンの働きによるという。
これと同じ原理で、店員の笑顔はお客にうつる。両者のあいだに相手が誰なのか、相手とどういう関係にあるのか、などによりミラーリングの強弱はあるが、店員の笑顔がお客の表情を笑顔に変える。つまり「笑顔行動(スマイル・アクション)」には、安心感などの情報伝達に加えて相手に行動を起こさせる複合的な効果があるということになる。「笑顔が職場を明るくする」と言われるが、この伝播と波及効果によるところが大きいと考えられる。

笑顔の表情が心の楽しさを創る

そして最後に、店員からうつったお客の笑顔がすばらしい効果を発揮する。それは、笑顔を作ることで意識を変える効果があることだ。
ミュンテ博士(オットー・フォン・ゲーリケ・マグデブルグ大学)の論文によると、人が箸を横にくわえて表情筋が動き、笑顔に似た表情になると、箸をくわえた人のドーパミン系の神経活動に変化が生じ、脳の報酬系、つまり「快楽」に関係した神経伝達物質が刺激される(nikkei BPnetビズカレッジ仕事術 東京大学池谷裕二准教授)。
つまり、笑顔は楽しさの結果ではなく、楽しさを喚起する原因となる。
「ドーパミンは、人間にとって最も依存性の高い物質として知られており、購入決定にはドーパミンの誘惑効果も影響している」(マーティン・リンストローム)ともいわれている。店に来たお客は、笑顔をうつされたことにより、店の雰囲気をよりポジティブ(ハッピー)に受け止め、サービスの評価や購入への態度を前向きにするという意識の流れが推察される。

笑顔がCSのマネジメントに取り入れられつつあることは前に述べたとおりだが、当社が経験した多くの事例では、笑顔の指導は、「マインドから入る」か「型から入る」かで教育や指導の方法が分かれるようである。一般に、短期派遣などスタッフの入れ替えが多い職場では時間的な制約から型から入るが、人材の長期育成を目指す職場では、おもてなしの心や経営方針などのマインドから入るようである。上記の脳の働きからうかがえることは、笑顔の表情だけでも重要な役割があり、型から入るのも有効だといえよう。
もちろん、ここで検討している笑顔とは本当の笑顔であって作り笑いではない。強制された笑顔は逆効果であり、店員の笑顔もさかのぼれば周囲のスタッフの笑顔からもたらされることが好ましい。笑顔が自然に湧いてくる職場の環境や人間関係がより重要であり、CSとともにES(従業員満足)が求められる理由もここにある。

参考文献
「感じる脳」 アントニオ・R・ダマシオ著 ダイアモンド社
「ミラーニューロン」 ジャコモ・リゾラッティ&コラド・シニガリア著 紀伊國屋書店
「買い物をする脳」 マーティン・リンストローム著 早川書房
「笑う脳」 茂木健一郎著 アスキー新書