公的統計市場の成長、そして成熟に向けて
2010.07.29
「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(略称 公共サービス改革法)が成立して既に4年の時間が経過した。この間、同法に基づく「公共サービス改革基本方針」も6回の改定を重ね、最新のものが本年7月に発表されている。そこでは統計調査関連業務の事項として「統計調査業務の民間委託における競争性を確保するための是正措置、民間競争入札の活用に関する検討」があげられ、その措置の内容としては「―委託期間の複数年化等により、業務の質の維持向上及び経費削減の一層の推進が期待できる統計調査については、民間競争入札の対象とすることについての具体的検討を監理委員会と連携して行い、平成22年中に結論を得る。」と記されている。
これに先立ち今年の3月には「統計調査における民間事業者の活用に係わるガイドライン」(各府省統計主管課長等会議申合わせ)の改正版が発表された。ここにおいては、「民間事業者の活用の可能性の検討」という表現を初め、「相互に関連性のある業務や調査横断的な共通業務における一括委託の活用」「委託契約の長期化」等、従来は記述されていなかった項目も盛り込まれており、民間開放は着実に進展の方向にあるとみてとれる。
では、実際の公的統計市場はどのような様相を呈しているのであろうか。調査会社の団体である日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)が昨年に引き続き2回目となる「公的統計市場に関する年次レポート 2009」を本年5月に発表している。同レポートによると、2009年度に実施された公的統計(基幹統計、一般統計)の民間開放の本数は77本、契約金額は非公表の2本を除く75本で37億3千万円となっている。前年度比は、本数ベースで57%、金額ベースで38%と顕著に増加。府省別では、本数・金額ともに経済産業省、総務省、厚生労働省が多くなっている。民間開放の市場は明らかに拡大しているといえる。
上記の公的統計の受託事業者の中心はJMRA加盟の調査会社であり、2009年度実績では金額ベース1,933百万円・51.8%を占めている。ただし、受託した社数は5社・2連合(複数企業の連合体)にとどまっており、同協会が別途実施している会員社対象の調査における「公的統計への参入希望社 44社」とは大きな乖離がある。民間事業者の参入意欲、さらに言えば参入余力を示すところとなっている。
各府省においては公的統計の民間開放がさらに進展する方向づけがみられ、実際の公的統計市場も拡大傾向を示し、そして民間調査会社の公的市場への参入意向も明らかに存在するということで、市場の成長性が十分見込めるようにみえる。しかし、市場としての成長すなわち「積極的かつ効果的に民間事業者を活用する」という目的の実現に向けては、まだまだ課題が多くあるといわざるを得ない。受託者としての民間事業者側の問題としては、実績を得たいがための低価格落札がある。発注者側の経費削減につながる価格の競争は当然あるべきものであるが、事後に公表された落札価格をみて疑問をいだかざるを得ないケースもある。このことは、結局は受託者の収益さらには発注者の次年度以降の予算措置にもマイナス影響を与えると思われる。そして、なによりも「統計の信頼性」への懸念にもつながりかねない。
また、JMRAの「民間調査機関における公的統計に関する実態調査報告書」(2010年4月)によると、官公庁から受託した調査の変動費(直接経費)が70%以上を占めるとの回答が4割(社数ベース)を超えている。人件費を含んでいないことも考え合わせると、この実態は事業会社としての業務遂行力発揮に対してマイナス作用をしている可能性もあり、さらには継続受注に向けての意思決定にも影響を及ぼすと考えられる。
上記の現象をなくしていくためには、民間開放の案件によっては予算額を公表する、仕様書情報の確認期間を十分に設ける、というのもひとつの方策と思われる。応札する民間事業者も内容を十分に理解し、価格についても単なる低価格落札を意図するのとは異なる各社の判断が作用する可能性が生まれる。
また、そもそも予算額そのものについての算出根拠を明示してもらいたいとの強い希望がある。直接経費の概算額、統計職員の人件費・人日等が主たる内容となる。これらの情報を認識した上での民間事業者の応札競争というのが総合的にみればより好ましいと思われる。
前出の「公共サービス改革基本方針」には、「質の達成目標については、ほとんどの事業において、対象公共サービスの従来の質と同水準、同程度のものを設定しているが、これまでのところ民間事業者は概ね当該目標を達成している。」との記述がある一方、「統計調査のガイドライン」には、先に紹介した民間開放進展に向けての新たな項目が加わっていると同時に「委託先の適切な選定」「委託候補業者の業務遂行能力等を確認」「価格だけでなく業務遂行能力等を踏まえた選定方法を積極的に活用」といった表現もみられる。
現時点においては、発注者側には民間事業者の履行能力に関してまだまだ懸念・不安といったものが実際は存在し、一方、受託者側には参入希望自体は強いものとして存在するが、事業会社としての採算性・継続可能性についての不確か感があると推測できる。換言すれば、まだまだ両者"見合い状態"にあるといえそうである。この状態を打破し、本来の目的を達成していくためには、やはり「スタート」における相互のキチンとした理解・認識の共有がなによりも重要ではないだろうか。前述していることでもあるが具体的には、①仕様書についての確認・質問・回答期間の十分な設定と応札希望者におけるその内容共有の徹底 ②一定規模・一定金額を超える案件については算出根拠を含めて予算額を事前に公表する ③予算額比で「ある水準(%)」を超える低価格入札は対象外とする、といった方策を実行していくことが望まれる。これらのことが前提になっての応札機会・応札実績を積み重ねていくことこそが、「統計の質を確保」「民間事業者の創意工夫発揮」そして「適正利益を確保した上での価格競争」等の要素を満たす市場の形成につながると思われる。そして、このような進展そのものが民間事業者自らの履行能力の改善・強化をも導きだし、民間事業者同士の競争環境そのものを育成、公的統計市場は成熟していくと考える。
専務執行役員 坂内克正