The future of poll surveys 世論調査の未来
2010.07.01
まもなく参院選である。マスコミの選挙予測報道では世論調査データが駆使されている。活況の世論調査だがその未来を考える。
戦後民主主義とともに再出発した世論調査は「民主」「科学」「平等」などのキーワードとともに輝いていた。戦後初の世論調査を実施した毎日新聞の紙面(1945年10月20日)は「しかして民主主義の基底は輿論の尊重にあり過去十数年来軍官の弾圧によって不当に眠らされていた国内輿論は今こそ活発に揺り起こされ新日本の正しい意味における推進力とならねばならない」と、終戦から3か月後に高らかに主張している。
はやくも戦後10年の1956年に岩波新書の『世論調査』(吉田・西平著)が出版された。当時は若者があふれ成人の54%が20~30歳代だった。人々は世論調査に協力的で調査員が家庭を訪問して80%~90%の協力が得られる時代であった。1960年には調査会社が次々に誕生しビジネスとしても興隆した。
転換期は1980年代後半にやってきた。調査員が全国の家庭を訪問面接する方法ではなく電話で質問する手法を日本経済新聞が導入して現在ではその電話世論調査がマスコミ各社の世論調査手法の主流となった。
対面から電話への測定方法の変化は世論調査を速報化し頻繁に実施できるようにした。また大規模調査も可能にした。1996年に衆院に小選挙区比例代表並立制が導入され選挙区が132から300に増加したが各社は電話調査に切り替えることで数十万人規模の調査を実施することができた。
世論調査の結果は「輿論・言論」から「情報・データ」の性格を強めている。選挙前の世論調査はその色彩が特に強い。世論調査と選挙結果との相関が強いことが実証されているからである。これは調査の信頼性の高さを示すものだが一方で責任も重くしている。1980年代以降の課題は人々が調査に協力的でなくなったことである。特に若者の協力率が低く、有権者に占める20歳代の人口構成比が14%であるのに対し調査に協力する同世代の数は少なく調査データにおける構成比は5%に過ぎない。
若者の回収率低下への対策として普及著しいインターネットで世論調査を実施すればいいとの意見がある。そう提言する有識者もいるが不十分な識見である。インターネット普及率が100%になっても世論調査に使えるとは限らないのであり、この問題は測定方法と抽出方法を区別して考えるべきである。
世論調査は有権者からの無作為抽出標本の調査結果であることが「有権者の意見の集約だ」と報道できる科学的根拠になっている。マスコミ世論調査の枠母集団は電話世帯であり、目標母集団(有権者世帯)のカバレッジは90%以上と推定される(注1)。
インターネットの調査モニターは専門調査機関が登録しているが最大で200万人程度に達している。しかしカバレッジは2%に過ぎない。代表性の低い200万人の大規模調査よりたった3千人でも母集団をよく代表している標本調査のほうが正しい結果を示すことは歴史的にも実証済みで1936年の米大統領選挙の予測調査が有名である(注2)。
実際にYahoo!リサーチが毎月インターネットで内閣支持率を調査している(回答者数は千人)。20歳代の構成比も高い。携帯電話しか持たない若者世帯もカバーしているようにも思える。内閣支持率はマスコミ各社より常に低く、鳩山内閣の初期で15ポイント以上の差異がある。Yahoo!リサーチの結果に納得する人々も多いだろう。しかし1億人の母集団から無作為抽出するか、調査モニターに応諾した200万人を母集団として抽出するかの差異は結果がどうかという問題とは異なる、調査手続きに関する理論的問題である。
にもかかわらず将来インターネットが全普及した未来社会において世論調査はインターネットで実施されるだろう。国税庁のe-Taxより容易に本人確認ができて、何らかの手段で全有権者から無作為抽出した本人にアクセスできるような社会が到来すればインターネットで世論調査ができるようになる。面接か電話か郵便かインターネットかは測定方法の相違に過ぎない。問題は抽出方法に強く存在している。
今のところ無作為抽出した標本に関してはインターネット調査の実施は難しいが携帯電話世帯の若者だけをインターネットで調査する混合方式の導入には可能性がある。
ところでインターネット世論調査には速報性がない。郵送調査に近いスピード感である。無作為抽出標本には回答したくない人も含まれるので督促も必要だし時間もかかるからである。
回収率の低下問題をインターネットは直接的には解決しない。若者へのアクセス可能性に期待できる程度である。回収率が問われなくなるのはインターネットの普及ではなく伝統的な統計理論に代わるパラダイムに転換した時である。快く回答してくれた人だけの偏ったデータから母集団を推定できる理論が完成した時である。それができれば無理をおして一生懸命に協力をお願いする―という世論調査のスタイルはなくなる。
<図>日本経済新聞とYahoo!リサーチの鳩山内閣支持率
両社の月次調査は同日には実施していないが同じ月に実施された結果を比較した。
Yahoo! リサーチによる内閣支持率は,マスコミ各社よりも常に低い傾向で安定している。発足から4か月は平均15ポイントの差があるが,相関係数は0.99と極めて高い。絶対値は大きく異なるもののトレンドはほぼ同じであることを示している。
http://www.nikkei-r.co.jp/service/phone/
http://seiji.yahoo.co.jp/research/
注1.世帯電話契約率の正確な統計は存在しない。NTTの住宅用契約件数と国勢調査の世帯数から算出すると90%+αとなる。また2000年の固定電話普及率が96%だという調査結果もあるが近年は低下傾向にある。正確な統計を得るために国勢調査に通信環境に関する項目を追加すべきである。
注2.リテラリー・ダイジェストは200万人調査でランドン候補、ギャラップは3000人調査でルーズベルト候補の当選を予測したが結果はルーズベルトであった。大量観察(正確には2,376,523人だった)の偏った標本より少数でも代表性のある調査のほうが正確であることが示された有名な社会的事件である。リテラリー・ダイジェストはその後倒産した。
取締役 鈴木督久