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JCSI登場のインパクト

2010.08.20

 JCSI(日本版顧客満足度指数)が経済産業省の支援のもとで開発され、2010年3月よりサービス産業生産性協議会(SPRING)の事業として公表されることになった(注1) 。サービス産業を中心に29業種・約300社を測定した日本最大のCS(顧客満足度)調査である。これから継続的に調査が実施されて結果が年次公表されていく予定であり、日本のCS調査のデファクト・スタンダードになる可能性がある。私はJCSIの開発委員(注2)として参画した。

どこが「日本版」なのか

 「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(略称 公共サービス改革法)が成立して既に4年の時間が経過した。この間、同法に基づく「公共サービス改革基本方針」も6回の改定を重ね、最新のものが本年7月に発表されている。そこでは統計調査関連業務の事項として「統計調査業務の民間委託における競争性を確保するための是正措置、民間競争入札の活用に関する検討」があげられ、その措置の内容としては「―委託期間の複数年化等により、業務の質の維持向上及び経費削減の一層の推進が期待できる統計調査については、民間競争入札の対象とすることについての具体的検討を監理委員会と連携して行い、平成22年中に結論を得る。」と記されている。
 これに先立ち今年の3月には「統計調査における民間事業者の活用に係わるガイドライン」(各府省統計主管課長等会議申合わせ)の改正版が発表された。ここにおいては、「民間事業者の活用の可能性の検討」という表現を初め、「相互に関連性のある業務や調査横断的な共通業務における一括委託の活用」「委託契約の長期化」等、従来は記述されていなかった項目も盛り込まれており、民間開放は着実に進展の方向にあるとみてとれる。

図1 JCSIの満足度モデル

 日本版の最大の修正点は質問文の表現である。構造モデルにも若干の修正はあるが本質的に重要なのは妥当性の高い質問文で安定した(信頼性の高い)測定を可能にすることであった。ACSIをはじめとする先行研究の直訳的表現からスタートし、2年半の開発期間にいくつかのプリテスト調査を実施。複数の業種・企業のモデル構成を試み検討して現在の質問文が出来上がった。測定尺度に関しては10件法のリッカート尺度でACSIと同じである。実は私は5件法を主張したのだが、プリテストの結果を検証したところ顕著な不都合は検出されなかったのでACSIと同じにした(注3) 。
 第二の相違はWEB調査を採用したことである。ACSIは電話調査である。他国もそれぞれの国情を反映して異なる調査方法でデータを収集している。WEB調査には懸念もあったため、プリテスト調査において郵送調査とWEB調査を同時に実施して結果を比較した。ほとんどの重要項目において問題となる差異はなかった。そのため大規模な調査を実施できるWEB調査を採用することになった。どの調査法にも測定の独自性があるので、一貫した方法を継続できることが重要だった。
 このほかの相違点は「マーケティングジャーナル」最新号(117号)のJCSI特集を参照されたい(注4) 。モデルの統計的推測に関してはこれまで詳細な報告をしていないが、技術的話題なので積極的に発表していないだけであって、他意はない。基本的情報はSPRINGのWEBサイトに掲載されている(注5) 。

どのようにJCSIを活用するか

 JCSIの特徴は自社だけでなく他社の顧客も調査・測定しているため、同じ質問項目で比較できることである。一般には業界横断的な比較が可能という点が強調されているが、各企業にとっては業界内の競合他社との比較に興味があるだろう。自社と他社の強みと弱みを明らかにし、業界内のポジショニングを明確にしたうえで課題を発見することで、行動計画に活用することができる。
 JCSIのモデルの部分に関しては、まずパス係数を解釈することで自社の満足度がどのような因果関係になっているかを知る。これを他社と比較することもできる。自社の顧客がどのプロセスで評価しているのか否かを知ることでCSに影響する要因を探ることができる。
 JCSIではCSモデルが前面に出ており、CSのランキングが注目されがちであるが、実は調査全体ではCSモデルに使う質問以外にも多くの測定項目がある。一般的なCS調査では総合満足と個別満足からCSポートフォリオを作成して課題を抽出するレポートが有益である。個別満足に相当するSQI(サービス品質評価)を使って数種類のポートフォリオを作ることができる。もっと基本的な視点も重要である。満足している顧客と不満の顧客を層別して、どこに差異があるのかを分析することで満足や不満の要因に迫るのである。顧客の層別はCSスコアの水準のほか、自社サービスの再利用意向や利用頻度・利用額・回答者の世帯年収などでできる。
 いくつかアウトプットのイメージを見てみよう(いずれもデータはダミーである)。図2はCSポートフォリオで、図3は競合他社との差別化特徴によるポジショニングマップの例である。

図2 CSポートフォリオのイメージ

プロット項目をSQIとした場合。縦軸はCSとの相関係数、横軸はSQIのスコア。第二象限は重要なSQIなのに評価が低い課題群である。

図3 競合他社とのポジショニングマップ

CSIでは業種ごとに独自の質問項目も用意されている。A社のサービスを使う理由や評価観点などで他社との比較優位性を検討できる。

 このほかにも先進的な内容として「スイッチング・バリア」の項目がある。まだ研究途上であるが、顧客維持戦略のひとつとして自社から他社へスイッチする可能性と困難性を把握することは重要な情報だろう。

最後はカスタマイズ

多くの企業は既にCS調査を実施している。JCSIから得られる結果だけでは自社の要求内容を満たさないところもあるだろう。自社のためだけに設計されていないのだから致し方ない。その場合は、要求を満たすような設計を提案する。
JCSIが存在するので、この成果を踏まえた設計も有益であろう。JCSIの測定対象企業だけでなく、非測定企業のためのサービスメニューも用意されている。当社はSPRINGと協調しながら企業の皆さまがJCSIを利用するお手伝いをしていく。興味をもたれた企業には説明に出向き、またセミナーの開催も予定している。ご関心のある方はぜひご一報いただきますようお願いいたします。
【文献】
朝野煕彦・鈴木督久・小島隆矢(2005).『入門 共分散構造分析の実際』,講談社
南知惠子(2010).日本版顧客満足度指数は何を示すのか?.マーケティングジャーナル,117号.
南知惠子・小川孔輔(2010).日本版顧客満足度指数(JCSI)のモデル開発とその理論的な基礎.マーケティングジャーナル,117号.
Oliver, R. L. (1980). "A Cognitive Model of the Antecedents and Consequences of Satisfaction Decisions", Journal of Marketing Research, 17, 460-469.
Oliver, R. L. (1996). SATISFACTION: a behavioral perspective on the consumer. McGraw-Hill.
小野譲司(2010).『顧客満足[CS]の知識』,日経文庫
小野譲司(2010).JCSIによる顧客満足モデルの構築.マーケティングジャーナル,117号.
酒井麻衣子(2010).顧客維持戦略におけるスイッチング・バリアの役割―JCSI(日本版顧客満足度指数)を用いた業界横断的検討―.マーケティングジャーナル,117号.
土田尚弘・鈴木督久(2009).顧客満足度調査にもとづくインターネット調査と郵送法調査の比較研究.マーケティング・リサーチャー,No.110.

注1. JCSIのプレスリリースは日経MJ(2010年3月17日)一面で報道されたほか、NHKと民放各局でも取り上げられた。
注2. JCSIの開発ワーキング・グループの委員は以下のとおりある。

小川 孔輔(法政大学)座長
小野 譲司(明治学院大学)主査
朝野 煕彦(首都大学東京)
酒井麻衣子(多摩大学)
鈴木 督久(日経リサーチ)
藤川 佳則(一橋大学)
南 知惠子(神戸大学)
余田 拓郎(慶応大学)

http://www.jmra-net.or.jp/conference/

注4.「マーケティングジャーナル」は日本マーケティング協会が発行する季刊雑誌である。

http://www.jma2-jp.org/business/book.html

注5. SPRINGのWEBサイトにはJCSIに関する基本的情報があり、質問項目なども公開されている。

http://www.service-js.jp/jcsi/page0800.php