マーケティング、まずは社内から、従業員を対象に
2011.01.24
日本で顧客満足度が一番高い製品やサービスを提供している企業はどこか。同業種内でのライバルの順位付けならともかく、異業種の企業とも比較でき、業種を横断して満足度に順位をつけるのは結構な難題だ。
その難題を解決する指数をアメリカのミシガン大学が開発したという。これは便利ということで、日本生産性本部傘下のサービス産業生産性協議会が中心となり、日経リサーチなども参加して日本版の指数「JCSI」を開発した。
早速そのJCSIを29業界の291社を対象に算出したところ、最も顧客満足度が高かったのは、東京ディズニーリゾートだった。入園者数が世界最多で、しかも日本に限らずアジア各国からのリピーターが多いことなどを考えても、同社がJCSIの高さで1位になったのはうなずける。
それでは、なぜ東京ディズニーリゾートの顧客満足度はそんなに高いのか。満足度の高さの秘訣は何か。JCSIを構成する評価項目を見ると、従業員の提供するサービスの質が高く、しかもバラツキがなく、均一に高いことが読み取れる。
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドで働くスタッフはキャストと呼ばれ、その数は約2万人。そのキャストの9割はアルバイトだそうだ。
世界的に、理念経営の代表といえるディズニーランドだが、日本のオリエンタルランドの企業使命は「夢、感動、喜びとやすらぎを提供し続ける」こととしている。この活動の循環がオリエンタルランドのビジネスで、循環のためには原資が必要。
原資は、顧客に必要とされるものを提供して得た対価による利益。利益を上げるためには、売り上げを増やすか、費用を削減する方法がある。このうち売り上げの増加は、顧客の満足が伴わなければならない。
費用の削減を進める際は、安全や求める品質を保たなければならないと規定している。特定の部門、例えばゲスト(オリエンタルランドではディズニーリゾートを訪れた人々をこう呼ぶ)に接するキャストだけではなく、すべてのキャストにこの方針は徹底しており、そもそもこの方針に共感できない人間はオリエンタルランドのスタッフにならない。
だからここで働くキャスト全員にこの考えは浸透しており、それを実践している。そしてオリエンタルランドは2010年3月期に2年連続過去最高益を更新し、今期も3期連続最高益更新を視野に入れている。
「消費者と顧客の立場にたった"よきモノづくり"を行い、世界の人々の豊かな生活文化の実現に貢献する」。これは花王グループの企業活動の拠りどころとなる企業理念(Corporate Philosophy)で「花王ウェイ」と呼ばれている。
花王グループのホームページによると、花王ウェイはグループの中長期の事業計画の策定から、日々のビジネスにおける一つひとつの判断の基本ともなる。これによりグループの活動は首尾一貫する。
一人ひとりの従業員にとっては会社の発展と個人の成長を重ね合わせ、仕事の働きがい、生きがいを得るための指針となる。花王グループの各企業、各メンバーは花王ウェイをマニュアルや規則としてではなく、それぞれの仕事の意義や課題を確認するための拠りどころとして共有しているという。
まさに会社の考えや目指すところを全社員が共有して、会社の発展とともに、個人の働きがいや生きがいを得ようとする理念である。
2009年に起きた「エコナ関連製品」の製造・販売中止は記憶に新しい。長年の研究開発を経て1999年に発売したエコナは、当時200億円規模の主力製品に成長していたが、食用油中に含まれる物質の発ガン性が指摘されたことをうけて製造・販売中止にいたった。
これも花王ウェイを実践した決断として当然のことのようだ。花王は徹底的した安全性評価を行い、再度消費者の健康な暮らしに貢献できる機能性食用油の発売をめざしている。
同じ会社で働く社員が同じ目的をもち、それを実現するための共通の認識のもとそれぞれの立場で働き、結果がともなう。それが働きがいに通じるのではないか。
会社の考え・意思、目指すところを従業員一人ひとりが共有することが大事だろう。社員それぞれが違う方向を見ていては会社は前に進めない。
早稲田大学の木村達也教授は、昨年4月9日付の日本経済新聞の経済教室で一般顧客でなく、社員を対象に働きかける「インターナル・マーケティング」の重要性を説いている。
企業活動に創造性とスピード感が強く求められるようになっているので、マーケティングは専任部門だけでなく、顧客に少しでも関係するすべての社員、つまりその企業で働く全員がマーケッターになる必要がある。そのために自社の従業員を対象に働きかけるマーケティング、すなわちインターナル・マーケティングが重要という。
木村教授はインターナル・マーケティングを「組織がその目標を中長期に達成することを目的として実施する内部組織の協働のための一連のプロセスあるいはコミュニケーション」と定義している。
インターナル・マーケティングの顧客は社員であり、対象商品は仕事。従業員に喜んで仕事を買ってもらい、買い続けてもらうことで、社内の至る所に共鳴関係ができあがり、その結果、付加価値に優れた製品やサービスが市場に提供され、最終顧客の満足を獲得することができると説く。
木村教授と当社の共同調査で、収益や顧客の増加といった企業の業績に影響を与える要素として、①経営陣が明確な中長期指針を設け、社内に徹底されているかといったリーダーシップ、②部門間や部門内の自由な議論・協力・連携の度合いなどのコラボレーション、③社内外の情報の収集・活用の度合い、④現場における効率的な対応力であるオペレーション力、⑤新製品・サービスを生み出し展開する市場開発力──の5つが導き出された。このうち特に、②の社内のコラボレーションの度合いが高いほど、全般的なマーケティング活動がうまく行き、企業の業績向上などの成果としても表れるという実態が見えてきた。
そして、売り上げや利益を左右するのは景気変動などマクロ的な環境要因によることもあるが、それらに適切に対応していくためには、社内の「全員マーケティングを目指す必要」があり、まず経営者は「理念やブランドの意味を簡潔に示し、それを社員全員に徹底させるためマーケティングの手法を社内でいかすべき」であろう。「これらはすべて、市場に対してマーケティングを展開する前に実行しなければならない社内に向けたマーケティングである」と結論づけている。
インターナル・マーケティングはまず会社の考え・意思、目指すところを従業員一人ひとりに共有させるところから始まる。オリエンタルランドや花王グループはインターナル・マーケティングという言葉こそ使っていないが、仕組みとして取り込み、それを実践しているといえる。
当社は木村教授と共同で、「利益を伸ばしている」「売上を伸ばしている」企業の内部組織の仕組みをインターナル・マーケティングの視点から実証的に明らかにするモデルを開発した。このモデルを活用すれば、中長期的に成果を上げ続けるための組織改革や改善施策を練る際の力強い武器となるだろう。
常務執行役員 羽白 勝