多様な調査を営業活動に活用! マーケティングで震災・原発事故の逆境乗り切る-アクアシティお台場
2011.12.09
東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故は被災地のみならず、国内各地で農漁業や観光業に深刻な打撃を与えた。東京湾岸地域で有数の人気観光エリアである「お台場」もその影響は免れず、来訪客が一時、大幅に減少したという。だが、関係者はこうした状況を黙って見過ごしていたわけではない。お台場を代表する複合商業施設のひとつ、「アクアシティお台場(以下「アクアシティ」)」は逆境への対応策に、小社が得意とするエリアマーケティングなどの調査手法を活用している。その取り組みを探った。
「首都圏センサス」でわかったお台場の弱点
アクアシティは2000年4月1日に開業した。80以上の物販・サービス店舗と約50の飲食店舗、都内最大級のシネマコンプレックス「シネマメディアージュ」、光・音・エンタテインメントがテーマの体験型科学館「ソニー・エクスプローラサイエンス」が入った大型複合ショッピングセンターだ。人気スポットであるお台場海浜公園に隣接し、フジテレビとも至近距離という立地にも恵まれ、来館者は年間2000万人を超え、昨年は開業10周年で累計2億人を突破した。
3月11日の東日本大震災は、アクアシティが、次の10年間の方向性を打ち出し始めた最中に発生した。アクアシティは以前から小社に来館者へのヒアリング調査を依頼していたが、昨秋、「それまでとはガラリとスタンスを変え」(アクアシティ・竹迫哲哉副館長)、中国人など外国人を含めたお客様の意見を網羅的に聴取し、その実態を多角的に把握できる方法を考えて欲しい、と小社担当者に持ちかけた。調査・分析だけでなく、そこからのソリューションを調査データに基づいて一緒に考えることになった。
そこで担当者は「首都圏センサス」などのデータと、そこから導き出した仮説を提示した。首都圏の商業エリア約160カ所中、お台場は滞在時間こそ長いが、また来たい人の割合は約33%で、全体の57位。新しい客は来るが、リピーターが少ない。滞在中は1つの施設の中で過ごすのでなく、エリア内の複数の施設を回る。特定の施設目当てでなく、お台場というエリアをレジャーのために訪れているわけだ。従ってお台場と競合するのは巨大ショッピングモールではなく、大型の複合レジャー施設であり、来訪客にまた来たいと思わせるには、そうした施設で得られるような驚きや満足を提供しなければならない。

震災後の来訪客・見えてきたその特徴
こうしたデータと仮説をアクアシティ側に示し、具体策の策定に取りかかろうとした矢先の大震災。日経リサーチが今年5月に独自に実施した「震災後の消費動向調査」によると、首都圏の約160カ所について、各エリアを今年に入ってから震災までに訪れた人の割合と、震災後、ゴールデンウィーク前までに訪れた人の割合を比べると、お台場は震災後の訪問率が震災前の訪問率の37%にとどまり、同じ東京ベイエリアの舞浜の40%を下回って、訪問率が最も落ち込んだエリアとなった。
「日本人の意識は震災後変わった」と感じた竹迫副館長は、10年先より、まずこの夏のことを考えることにした。「来館していない人はアクアシティをどう思っているのか。以前から聞いてみたかった」というアクアシティの意向もあり、小社は5月、お台場に来たことがない人を含む首都圏の約1万8000人を対象にしたインターネット調査やお台場への来訪経験者を対象にした調査などを複合的に実施し、データを収集した。
その結果、お台場への来訪客は恋人や夫婦、友人などのカップル・グループ(CG)層と子供連れのファミリー層に大別され、それぞれ来訪目的や行動、要望などが異なることがわかった。例えば、ファミリー層の6割はお台場に午前中到着し、7割は18時までの間に帰途に就くが、CG層の4割は18時過ぎまでお台場に滞在している。また、お台場への来訪手段はファミリー層が自動車、CG層はゆりかもめが最も多かった。
こうした調査結果について、竹迫副館長は「例えば、震災以降、ファミリー層の出足と帰宅が早くなっていることは、館内のテナントも肌で感じていて、そういう声も聞いていたし、予想もしていた。これで行動に必要な裏付けとなる情報が手に入った」と語る。
2大客層それぞれ狙った時間帯別サービス
調査結果をもとに、CG層とファミリー層が主に滞在する時間帯別に、それぞれの属性に合わせた優待サービスを実施し、時間帯ごとの棲み分けを推進しようという基本方針が決まった。例えば、昼間の時間帯は自動車での来訪が多いファミリー層向けに駐車場料金を条件付きで最大8時間無料にするほか、お台場で食事も楽しみたいという客が多いことから、ドリンクサービスやランチ限定の新メニューなどを導入する。一方、夜間は風景や夜景を楽しみに来るCG層を意識して、夜景をバックにしたプロカメラマンによる無料記念撮影などのサービスを提供する。
6月下旬に開かれたアクアシティテナント総会では、調査結果などをまとめた資料を使い、竹迫副館長がソリューションのプレゼンテーションを行った。テナント総会はデベロッパー側とテナント側が協力体制を確認し合う、年1回開く重要な会議。各テナントの本社からも担当者が出席するが、「プレゼンは熱心に聞いてもらった。本社の担当者の反応も良かった」(竹迫副館長)という。
サービスのいくつかは7月25日~8月末の期間限定で試験導入された。中でも成功だったのは、駐車場料金の無料サービスだ。夏休み期間中のアクアシティの来館者全体は前年より減少したのに、自動車での来館者は増加したという。「テナントからも良かったという声があった。ニーズはここにあったと感じた」(竹迫副館長)。
また、11月13日から12月25日まで、クリスマスイルミネーションとして、日本初となる高さ7メートルのLEDクリスマスツリーのほか、東京湾を一望する屋上に、CG層のデートシーンを演出する7色に輝くハート形のカップルシートを設置した。
初調査!端末使って外国人来訪者の実態把握
アクアシティと小社は今年手がけた数々の試みを進化させ、アクアシティをさら発展させるべく、すでに作業を始めている。10月からは懸案だった外国人調査に取りかかった。以前からお台場を訪れる外国人観光客は多かったが、羽田空港の新国際線旅客ターミナル完成後は特に中国から観光客が大幅に増加した。ただ、その実態は把握できていなかった。例えば、来館者の何割が外国人で何割が中国人かということも、感覚でつかんでいるだけだった。「それをきちんと調査して裏付けを取る。それによってまた色々な施策を打ち出せる」(竹迫副館長)。
調査は日本語のわからない来館者でも居住地域が回答できるようなソフトを搭載した端末を導入するなど工夫して、中国の建国記念日に当たる10月1日の国慶節から1週間の連休期間に合わせて実施した。3日間で1000人分以上の回答データが集まった。
このデータを分析することにより、どこからどれくらいの来館者がアクアシティを訪れているのか明らかになった。今後はこのような調査を定期的に実施し、特に外国人の来館動向を正確に把握していくことで、アクアシティの営業戦略に生かしていく。
ライバル同士に共闘の機運・新サービスで顧客獲得
お台場は街開きから15年が経過した。複合商業施設もアクアシティのほか、デックス東京ビーチ、ヴィーナスフォートの3施設がしのぎを削っており、さらに来年はフジテレビの隣接地にダイバーシティ東京が開業する。ただ、竹迫副館長は「首都圏にはお台場以外にも魅力的な観光スポットがひしめいている。施設という点同士でなく、まずお台場という面として戦っていかないと、お客様を獲得できない」と話す。
ただ、意識は少しずつ変わってきた。今夏のセールは3施設が初めて共同の広告を打った。また、今冬はアクアシティをはじめとする商業施設だけでなく、台場所在の各施設が共同して、台場全体を様々なイルミネーションで彩る「イルミネーションアイランド お台場」を開催するなどの取り組みを進めている。

「商業施設だけで考えるのでなく、お台場にはフジテレビ、トヨタ自動車の大型ショールーム、日本科学未来館、温泉施設など面白いコンテンツが色々ある。これだけ多彩な施設が1カ所に集中しているのは強力な武器であり、他のエリアに対する一番の強み。各施設はスタンドアローンでやっていてもダメという意識になってきているが、他所に勝る魅力を生かすには、お台場内のツアー企画作りなどを進めていく必要がある」と竹迫副館長は語る。
そんな中で、アクアシティはどういう方向へ向かおうとしているのか。「今年やったことはあくまで基本。これをベースに、季節ごと、年ごとにプラスアルファを加えるなど、サービスをアレンジしていきながら、継続し、お客様の獲得に努めていく。この10年間にお客様の要望や期待も変化した。それをキャッチし、うまくひとひねりして、新しいサービスを仕掛けていきたい」(竹迫副館長)。
最後に小社への期待を語ってもらった。「我々だけでは主観的なもの、自己満足に陥り勝ち。そこを補完する為に客観的調査データを示してもらい、これを我々が施策に反映する。かなり長いスパンの話になるが、客観的なお客様の視点を持って、パートナーとして一緒に走ってもらえるとありがたい」。