株式会社日経リサーチ
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中南米第2の大国 メキシコ経済は今(下)

日系企業の進出加速 自動車産業の集積地を訪ねて
Kazuki_Bild_20181030-150x0.jpg  メキシコに進出する日系企業が相次いでいる。日本の外務省の統計では、2010年の約400社から2017年には1182社へと約3倍に増えた。主な進出先は首都メキシコシティではなく、バヒオ地域と呼ばれる中央高原エリア。今回、製造業を中心に日系企業にとって注目のエリアを見てきた。
c6897_1.png  バヒオ地域はアグアスカリエンテス州、ケレタロ州、グアナファト州、ハリスコ州などから成り、メキシコの中央部に位置する。ここ10年ほどでメキシコに進出する日系企業は大きく増えたが、増加分のかなりの進出先をバヒオ地域が占める。統計が整っている2015年を見ると、日系企業全体の47%がバヒオ地域に進出している。
 
c6897_2.png 今回の視察ではまず、バヒオ地域の中でも特に日系企業が集まっているアグアスカリエンテス州を訪れた。人口は100万人超。中心都市アグアスカリエンテスへはメキシコシティから空路で1時間15分程度。空港から車で街の中心に向かう途中、10分もしないうちに広大な敷地を持つ日産自動車のアグアスカリエンテス工場が見えてくる。同工場は1983年に操業を開始し、ここを拠点に周辺エリアは日産の企業城下町として発展していった。同州政府によると、外資系企業は167社が進出しているという。
 メキシコ日産のアルマンド・アビラ副社長は「この州の人口の2割以上が自動車産業で働く人とその家族だ」と話す。この小さな州の魅力は何か。
 アグアスカリエンテス州は所得格差の小ささと識字率の高さが国内トップクラスで、2016年の経済成長率はメキシコ全体の2.7%に対し9.8%を誇る。世界銀行の格付けでは、メキシコで最もビジネスをしやすい州にも選ばれている。州政府の担当者は「離職率も低く、ストライキのような労働争議も聞かない。安心してビジネスができる場所だ」と胸を張る。
C6897_1_DSC08363-300x235.jpg 到着翌日は日産の自動車工場を見学した。カートに乗って案内をしてもらったが、一部を回るだけで30分ほどかかった。想像していたより大きい。オートメーション化が進められているため、従業員の姿はまばらだった。現在、サニーを原型とするセントラやヴァーサ(日本名ティーダ)を生産している。

 日産はアグアスカリエンテスに2カ所、メキシコシティ近郊のクエルナバカに1カ所工場を持っている。年間80万台以上を生産しており、同国の自動車生産の実に2割を占めるトップ企業だ。メキシコを世界7位の自動車生産大国に押し上げた立役者が日産だと言っても過言ではない。米国に約45%を輸出、約44%を国内で販売している。メキシコで生産した自動車のうち、トヨタ自動車は98%、フォード・モーターは97%、ゼネラルモーターズは86%を輸出している。これらに比べ、日産の国内販売比率が高いことがわかる。
C6897_2_4679.jpg   生産現場出身のアビラ・メキシコ日産副社長は自信をもって言う。「メキシコの日産はロイヤルティーを重視している。米国のグローバルトレーニングセンターで学べるほか、国内にはNissan Universityがあり、スキルアップの機会も充実している。日産のマインドに共感した従業員が多く辞めずに残っており、アグアスカリエンテス工場は7時就業開始だが、従業員は自主的に6時20分には出社している」
 治安の良さも日系企業には重要だ。「メキシコシティとは違って夜中に出歩いても大丈夫だから、ぜひ地元の人と交流してほしい」。政府系貿易推進機関であるプロメヒコのアグアスカリエンテス支部担当者から促されたこともあり、夜の街を歩いてみた。街角でメキシコ音楽を奏でる楽団「マリアッチ」が演奏する中、家族・友人らが食事をしたりダンスをしたりする光景を目にした。屋外のレストランで食事中のメキシコ人家族に呼びとめられ、ご馳走になった。「この街は日系企業によって発展したから、とても親日的だ」と言う。
C6897_4_.jpg  帰り際には夜食として、その家族から東洋水産のカップ麺を手渡された。「マルちゃん」はメキシコの即席麺で9割のシェアを持つトップブランドで、「メキシコの国民食」と呼ばれる。1970年代に米国で製造を開始したが、当時、同国に働きに行っていたメキシコ人が持ち帰り、広まったという。東洋水産は2004年には本格的にメキシコで販売を開始。同国の需要増に応えるため、昨年は50億円を投じ米テキサス工場に生産ラインを増設した。消費市場としてメキシコを有望視する動きは東洋水産にとどまらない。ゼンショーは2013年に牛丼店のすき家をメキシコシティに出店し、現在は全土で17店にまで増やした。
 
 製造拠点としても消費市場としても有望なメキシコだが、外国企業にとっては悩ましい問題もある。

 バヒオ地域に進出している日系建設業者の日本人マネージャーが語る。「素直で労働争議はほとんど存在しない。ただ、従業員同士で給与情報を交換し、その差から不満が生まれることがある。また、スキルアップの機会を提供すると、それを生かしてより給料の高い企業に転職してしまう」

 OECD加盟国の中で最も安い労働力が魅力のメキシコだが、優秀な人材を確保するにはそれに見合った賃金を提示する必要がある。だからと言って、企業側も「人事担当者同士が給与情報を交換し、暗黙のカルテルを結ぶと、違法になりかねない」。多くの日系企業の法務コンサルティングをしているホアキン・ベガ氏はそう言ってくぎを刺す。
C6897_3_DSC08183.jpg バヒオ地域では、グアナファト州にもトヨタ自動車、ホンダ、マツダが進出しており、多くの日系サプライヤーが操業している。ただ、カナダ、米国と合意した新貿易協定USMCAでは、自動車部品の40~45%を時給16ドル以上の工場で作らなければならない「賃金条項」が導入される。自動車関連産業の対応や、協定によりメキシコの競争力に変化があるのか注目される。
 日産はカルロス・ゴーン元会長の一連の事件で揺れている。メキシコ自動車産業の中心的存在であるだけに、現地では日産関係者だけでなく、政府関係者も今後の動きを注視している。USMCAの影響も気がかりだ。メキシコを取り巻く環境には目先、不透明感が漂っている。ただ、今回メキシコを訪ねてみて、着実に中間層が育ち、中長期的視野で見れば有望市場に成長していくであろうと実感した。
(国際調査本部 横原グリッツナー一輝)
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