株式会社日経リサーチ

人生100年時代を見越した資産選択
:金融リテラシーに着目して

「人生100年時代」
 最近、「人生100年時代」という言葉を目や耳にする機会が増えました。この言葉は、自分が100年間生きることを前提に、教育や仕事、家庭生活、資産計画などのライフプランを設計しようという文脈の中でしばしば用いられています。日本人の平均寿命が男性81歳、女性87歳であり*1 、実際に約7万人が100歳以上に達していることを考えると*2、「人生100年時代」という言葉は決して大げさではないでしょう。
 退職後は退職金や年金・貯蓄などを取り崩すことで生活をする人が増えることなどから、60歳代までは年齢が上がるにつれて、貯蓄保有額も大きくなる傾向があります(図1)。また、高齢になると、複雑な計算や情報の処理などが難しくなってくることもあり、人生の早い段階から、計画的な資産のやりくりについて検討しておく必要があります。
 
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出典:総務省「平成29年 家計調査(貯蓄・負債編)」より筆者作成
注)「貯蓄」は、預貯金、保険、有価証券を含み、「負債」には、住宅・土地のための負債、それ以外の負債、月賦などを含む。数値は2人以上の世帯についての平均値である。
金融リテラシーとは
 ヘルスリテラシー、情報リテラシーなど、世の中には様々な「〇〇リテラシー」が溢れています。「金融リテラシー」もその1つです。「リテラシー」とは、一般的には「読み書きをする能力」を表しますが、金融リテラシーは、個人の金融に関わる知識や教養のような理解を表す側面と、それらを実際の金融資産のマネジメントに活用する能力を指す側面とがあります*3。海外の多くの研究では、金融リテラシーが高い人ほど、より多くの資産を蓄積していたり、退職後の資産計画を立てていたりすることが報告されています。
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*1厚生労働省「平成29年簡易生命表の概況」より。
*2厚生労働省「報道発表資料(2018年9月14日):百歳の高齢者へのお祝い状及び記念品の贈呈について」
 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177628_00001.html(最終閲覧日:2019/2/22)
*3 Huston SJ. Measuring Financial Literacy. Journal of Consumer Affairs. 2010;44(2):296-316.
金融リテラシーを測る
 では、金融リテラシーはどのように測定するのでしょうか。学術研究においても、必ずしも統一的な方法が採られているわけではありませんが、最もよく用いられる尺度の1つに「ビッグ3」があります*4。ビッグ3では、貯蓄や投資をする上で重要な、分散投資、インフレーション、複利計算のそれぞれを理解しているか3質問し、簡易的に評価します。
 日経リサーチが60歳以上の高齢者1200人超を対象に金融意識や貯蓄・投資行動などについて聴取したシニア調査「GRAND100」では、それぞれの問題の正答率は5割前後で(表1)、金融広報委員会が実施した「金融リテラシー調査」*5の結果と比較すると、いずれの設問も正答率は低くなっています。この結果だけでは、回答者がより一般集団に近いのはどちらの調査なのかを判断できませんが、「金融リテラシー調査」はインターネットによる調査なので、インターネットを使うことができる中高年者のみを対象とすると、結果に偏りが生じてしまうことの表れなのかもしれません。

表1. 金融リテラシーを測定する「ビッグ3」とGRAND100回答者の正答率
  正誤問題 GRAND100 金融リテラシー調査
分散投資 1社の株式を保有するのは、複数社の株式を少しずつ保有するのよりも安全な投資方法である 49% 54%
インフレーション 物価上昇率が2%で、普通預金口座で受け取る利息が1%なら、1年後にこの口座のお金を使って、今日以上に物が買える 56% 72%
複利計算 100万円を年率2%の利息が付く預金口座に預け入れた。それ以外にこの口座への入金や出金がなく、利息にかかる税金を考慮しない場合、5年後、口座の残高は110万円より多い 45% 50%
注)GRAND100と金融リテラシー調査いずれにおいても、60~79歳の回答者に限定した結果であるが、当該年齢範囲における分布の偏りを調整していない点には留意が必要である。
金融リテラシーと資産運用の関連
 次に、シニア調査「GRAND100」において、金融リテラシーが高いことと、様々な金融行動の間にどのような関連があるのか、見ていきたいと思います。
 図2は金融リテラシーと、貯蓄や投資などの資産運用方法や考え方との関係性についての分析結果を示しています。金融リテラシーの正答数が多い人の方が、株式や投資信託を保有していること、そして、老後の資金の主な運用先に現役時代に利用していた銀行ではなく、別の銀行や証券会社などを利用している(または利用したいと考えている)傾向が強いことがわかりました。この結果からは、因果関係の有無までは断定できませんが、金融リテラシーと資産運用への考え方には関連性があることが読み取れます*6
 
金融リテラシーと資産の運用方法
注)オッズ比:金融リテラシーの正答数が1問増えると、各項目に該当する確率が何倍になるかを表す。**は有意水準1%で、*は5%で統計的に有意なことを表す。結果は、年齢(対数値)、性別、学歴、婚姻状況、就労状況、金融総資産額(対数値)で調整済み。
項目
  1. 1. 株式を保有
  2. 2. 投資信託・ETFを保有
  3. 3. 相続・遺言の相談(予定を含む)
  4. 4. 長期的な資産運用:積極的に増やすことが大事(対こつこつ貯めることが大事)
  5. 5. 長期的な資産運用:減らさないことが大事(対こつこと貯めることが大事)
  6. 6. 老後の資金運用の主な利用先(予定含む):新しい銀行(対現役時代と同じ)
  7. 7. 老後の資金運用の主な利用先(予定含む):保険会社・証券会社(対現役時代と同じ)
  8. 8. 老後の生活費が不安
  9. 9. 定年退職金の運用については、専門家に相談しないと不安
  10. 10. 老後の生活資金は、貯蓄の取り崩しよりも個人年金の受け取りの方が好ましい
  11. 11. 老後は途中で定期的に利息や配当などを受け取れる金融商品を利用したい
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*4 Lusardi A, Mitchell OS. The Economic Importance of Financial Literacy: Theory and Evidence. Journal of Economic Literature. 2014;52(1):5-44.
*5わが国の金融リテラシーに関する代表的な調査で、金融広報中央委員会(事務局 日本銀行情報サービス局内)が2016年に実施した。
 https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/literacy_chosa/(最終閲覧日:2019/2/22)
*6しかしながら、シニア調査「GRAND100」では60歳以上を対象としており、既に退職をしている人も多く含まれているため、老後の考え方に関する結果の解釈には注意が必要である。
理想のライフプランを実現するために
 ここまで、金融リテラシーの定義と測定方法および金融リテラシーと貯蓄や投資に関する考え方との関連性について、シニア調査「GRAND100」の結果を用いて紹介しました。
 先述した「ビッグ3」のような簡易テストは、その人の金融リテラシーがどの程度なのか測定する参考になります。もっとも、分散投資や複利計算を知っていることは基本的な金融知識としては重要ですが、実際にそれらが自分に必要な資産選択に有用かというと、必ずしもニーズとは一致しないかも知れません。更に、就学中のお子さんがいる時、老後の資産の取り崩しを考える時、といったライフステージによって、必要となる情報や知識も異なってきます*7。金融商品には非常に多くの選択肢があり、複雑なものも多いため、自分ひとりの力だけで、全ての選択肢を網羅した上で最適なものを選択することは容易ではありません。従って、必要な時に必要な情報を取得できるよう、信頼できる身近な人(家族や金融機関など)や情報源を見つけておくこと、有事の際に慌てることのないように早めに資産計画を立てておくことが重要です。
 これまでは、20歳前後まで教育を受け、定年まで同一の企業で働き、老後は年金を受給して暮らすという単線型のライフコースが一般的でしたが、「人生100年時代」は新たなことに挑戦するチャンスがたくさんあります。長期にわたる視座を持ちながら、資産や仕事、家庭生活など様々な面について希望や計画を検討し、自分が思い描くライフプランを実現できるように、情報や人脈など身の回りにある資源を最大限活用することが肝要です。
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*7金融庁は、「最低限身に付けるべき金融リテラシー」について整理をしている。
 https://www.fsa.go.jp/news/25/sonota/20131129-1.html(最終閲覧日:2019/2/19)
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岡本 翔平 氏
岡本 翔平
慶應義塾大学経済研究所ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター 研究員、
東京都健康長寿医療センター研究所 研究員、慶應義塾大学経済学研究科 後期博士課程在籍。
2014年3月 慶應義塾大学経済学部卒業、16年3月 同経済学研究科 修士課程修了、17年3月 同医学研究科衛生学公衆衛生学教室 修士課程修了。
慶應義塾大学博士課程教育リーディングプログラム リサーチアシスタント、King’s College London訪問研究員などを経て現所属。
日本公衆衛生雑誌優秀論文賞、日本介護福祉・健康づくり学会 大会最優秀賞を受賞。
専門は社会疫学、社会政策で、主に健康の社会的な要因についての研究に取り組んでいる。
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