株式会社日経リサーチ

顧客本位の業務運営に向けた課題

リスク性金融商品販売にかかる顧客意識調査結果
 金融庁では、2017年3月に、「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表して以降、金融機関に対し、顧客本位の業務運営を実現するための取組方針や、その定着度合いを客観的に評価する(自主的・共通)KPIの公表を促すほか、投資信託等の販売会社へのモニタリングを行い、把握した優良事例や問題事例を公表してきた。
 「原則」公表後2年が経過する中、今般、こうした金融庁及び金融機関の取り組みが、顧客に適切に認知されているのか、また、足元の金融機関の営業実態等について、顧客がどのように評価しているのか、顧客意識調査を実施し、検証した。
 本調査は、20歳以上の個人(約6,000人)を対象としたインターネット調査と、インターネット使用率が低下する60歳以上の個人(1,500人)を対象とした郵送調査を併用し、それぞれ投資経験者と未経験者が2対1の割合になるように回答を収集した。ここでは、先行して実施したインターネット調査結果について紹介したい。
顧客本位の金融機関選びやすく――取組方針の公表を4割が評価
 まず、金融庁及び金融機関の顧客本位の業務運営の浸透・定着に向けた取り組みについての認知度であるが、こうした取り組みを知っている、あるいは聞いたことがある顧客は、全体の3割程度と、一定数存在している。一方、取り組み認知者のうち、リスク性金融商品の購入に際し、取組方針やKPIを実際に参考にしている人は2割にとどまっている。
 こうした中、全体の4割は、取組方針やKPIを公表することにより、顧客本位の業務運営に努めている金融機関を選びやすくなると回答しており、取り組みの有用性が相応に確認できた。他方、当該金融機関を選びやすくなると思わない人も全体の2割を占めており、その理由として、取組方針やKPIの内容が難しいとの回答が多くを占めた。
 また、顧客本位の業務運営に取り組む金融機関を選ぶ場合に役立つ情報は何か質問したところ、上位には、金融庁が販売会社に公表を促している「共通KPI」の項目である「金融商品保有顧客全体の損益状況」や「預り残高上位商品のリスク・コスト・リターン」が並んだ。一方、販売会社が自主的に公表しているKPIに多く採用されている、「商品ラインナップ数」や「顧客向けセミナーの開催数」、「FP等資格保有者数」などは関心度が低かった。
図表1:金融機関の比較に有用な情報
 以上より、金融庁及び金融機関は、取り組み認知度を高めるべく、取り組みに関して、より顧客の意見を反映した、わかりやすい内容の情報提供を行う必要があると考える。
金融機関の対応が良くなった――投資経験者の2割にとどまる
 次に、投資経験者に対し、販売会社の営業実態について質問した。その結果、7割がリスク性金融商品を購入する際、販売担当者から、他の金融商品との比較説明を受けていないほか、8割が商品購入後、フォロー・アドバイスを受けていない(あるいは、ほとんど受けていない)ことがわかった。このことから、今なお、特定の商品の販売にのみ注力している販売員が少なくないことが窺われる。
 さらに、「自分では当初購入するつもりがなかったリスク性金融商品を、販売担当者にお願いされ実際に購入したことがある」、「長期投資を目的として購入したリスク性金融商品を、販売担当者から、ある程度の評価損益になった時に、乗り換えを勧められて売買をしたことがある」と回答した投資経験者が、それぞれ2割を占めており、お願い営業や乗換販売が一定程度行われているようだ。
 こうした中、金融庁や金融機関が顧客本位の業務運営の浸透・定着に向けた取り組みを強化してきたここ2~3年で、金融機関の対応が良くなったと感じたことがあるか質問したが、良くなったと感じたことがあるとの回答は、投資経験者の2割にとどまった。対応について不満な点を聞くと、「業績重視の提案が多い」、「販売担当者の商品知識・説明力不足」、「販売担当者の接客態度(親身でない等)」など、販売担当者の対応に関する事項が多くを占めた。
 以上を踏まえ、金融庁では、金融機関が顧客本位の業務運営に向けて販売担当者の人材育成や業績評価体系の構築を図り、適切に販売を行っているか、継続してモニタリングしていくつもりである。
他業種に比べて極めて低い金融機関の販売担当者のNPS®
 今回の調査では、金融機関の営業実態に関する顧客の評価を確認するツールとして、販売担当者に対する顧客の推奨度を数値化した指標(NPS®*1 )を用いた。その結果、投資経験者のNPS®は、平均▲52となった。この数値は、野村総合研究所が2018年3月に実施した業種別NPS®調査における銀行・証券会社・保険会社の数値(▲41~▲46)と同程度であるが、当該調査によると、テーマパーク(+19)やホテル(+2)、航空会社(▲10)、旅行会社(▲18)などと比べ、金融機関の数値は極めて低いことが分かる。
 NPS®を高めるためには、推奨者を増やし、批判者を減らす必要があるが、そのためには、顧客に対し、良い商品やサービスを提供するだけではなく、誠実・丁寧・スピーディーな接客等により、顧客に安心感や信頼感を持ってもらうことが重要だと言われる。
 ちなみに、どのような顧客(投資経験者)でNPS®が高いか分析したところ、商品購入後、フォロー・アドバイスを受けている人や、投資信託を積立購入している人、購入した商品の運用成績について理解している、あるいは満足している人、などであった。金融機関にはこうした顧客を増やす努力が求められる。
 金融庁は、金融機関において顧客本位の業務運営の浸透・定着度合いを測る指標としてNPS®を捉えており、今後もモニタリングに活用していきたいと考えている。
図表2:顧客推奨度NPS®図表3:業種別平均NPS®
 
*1 NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標
 
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水野 清司 氏
水野 清司(みずの きよし)
金融庁 総合政策局 リスク分析総括課 主任統括検査官

富士銀行(現みずほ銀行)にて、11年間の海外赴任も含め、ほぼ20年に渡り、市場(資金、為替、債券)ディーラーとして勤務。
その後、2009年金融庁に入庁。検査局総務課にて、金融証券検査官、特別検査官、統括検査官として、一貫して検査業務に従事。2014年7月より主任統括検査官として、フィデューシャリー・デューティーに関するモニタリングに従事、現在に至る。
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