株式会社日経リサーチ

従業員の意識から人材活用の効果を分析
テレワークのさらなる普及・促進を目指して

【連載】日経「スマートワーク経営」調査2018 分析と先進事例(14)
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 企業競争力を高めるには、企業が制度・しくみを整えるだけでなく、従業員の共感・働きがいを高めることが重要です。日経「スマートワーク経営」調査2018で実施した「ビジネスパーソン1万人調査」の結果から、従業員の意識を通して、スマートワーク経営を支える人材活用の効果と課題を浮き彫りにします。
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ポイント
  • テレワークは従業員の満足度向上と企業の生産性向上を目的とすべきであり、その達成のために、テレワークの対象者は育児・介護の必要な者に限定するのではなく、全従業員が利用できるようにすべき
  • テレワークの企業側からみた問題点を克服するためには、ICTなど新たなテクノロジーの徹底活用がカギ
  • 社外との関係が重要で、また、新たなアイデア、創造性、集中力がより必要とされ、テレワークがより適合するとみられる職務・仕事においては、テレワークをより積極的に活用すべき
テレワーク拡大の背景と目的、問題点克服のカギ
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鶴 光太郎
慶應義塾大学大学院商学研究科教授


滝澤美帆氏

滝澤 美帆
学習院大学経済学部経済学科准教授

 テレワークが働き方改革の一環としてより注目を集めるようになってきている。それはテレワークが、通勤時間が長かったり、子育てや介護の必要があったりするような事情を持つ一部の従業員に対する配慮・施策から、広く従業員の満足度や企業のパフォーマンスを高めるために重要な施策とみる企業が増えてきたからに他ならない。
 上場企業を主な調査対象にしている日経「スマートワーク経営」調査2017、同2018によれば、2017年から18年にかけて、在宅勤務を取り入れている企業の割合は、17年の35.4%から18年は44.2%に高まっている。サテライトオフィス勤務(本来の勤務地とは別の場所のオフィスなどで作業する勤務)を利用している企業の割合も17年の13.6%から18年は23.4%へ、モバイルワーク(営業活動などで外出中に作業する勤務)を取り入れている企業も17年の20.6%から18年は36.3%に増加、制度としては急速に普及していることがわかる。
 テレワークに関して行っている取り組み(複数回答)では、「自律的な働き方を尊重」が43.0%と4割を超えているほか、「時間外労働や休日勤務の制限を設置」(35.6%)、「ICT(情報通信技術)等を使って適切な労働時間の管理」(35.0%)、「生産性が高まるような業務、人材を選んで適用」(29.4%)などが上位を占めている。テレワークを活用している企業は、従業員の自律性尊重、生産性向上を目指す一方、テレワークの課題である長時間労働の問題にも配慮してきていることがわかる。
 しかし、テレワークを制度として導入している企業においても、実際のテレワーク利用者割合は、5%以下という企業が、回答企業の3分の2(66.9%)を占めている。生産性向上の効果を重視するならば、利用条件を問わず、なるべく広範囲の従業員がテレワークを利用できる仕組みを作ることが求められている。
 通常、テレワークの必要性については、オフィスや通勤に要するコストを削減し、働き手にとってライフスタイル・ライフステージに合わせた勤務が可能になることが強調される場合が多い。一方、テレワークの潜在的な問題点として、同じ場所と時間で働くことから得られる交流や情報の共有、チームワークの発揮ができないことや、上司が監視できないこと、セキュリティー上の問題などが指摘されてきた。しかし、近年ICTの進化により、これらの制約・問題点を克服し、ネット上で従来の職場と変わらないような仮想的なオフィスを実現することが可能になってきている。その意味で、時間・場所を選ばない働き方の導入は、ICTの徹底活用が大前提となっている。
テレワークを促進する要因の分析
 では、テレワークを促進するためには何が必要だろうか。「ビジネスパーソン1万人調査2018」のデータからテレワークの決定要因を分析した。具体的には、被説明変数を、テレワークを1年に1度でも利用している場合を1、利用していない場合を0、とするロジットモデルを推定した。説明変数には、従業員の個人属性(学歴、年齢など)、勤め先企業での役職、職務、職種などのデータを使った。図表1にその結果を示した。
図表1 テレワークの決定要因(n=10,000)
 図表1の説明変数のうち、回帰係数が統計的に有意な従業員の個人属性に着目すると、例えば、年齢の回帰係数は-0.162と負の値で、統計的に有意だった(有意水準は1%)。このことは、年齢が低いほどテレワークをより利用している傾向があることを示している。このほか、学歴が高い、年収が高い、また通勤時間が長い人ほどテレワークをより利用していることが確認できた。
 また、従業員の家族の状況をみると、子供がいる、また家族に介護を要する人がいる人のほうが、テレワークをより利用している。
 次に、企業における役職・職務をみると、(役職なしの人に比べて)専門職の人はテレワークをより利用しており、(事務職の人に比べて)管理マネジメント職、企画・マーケティング職、クリエイティブ職はテレワークをより利用している。
 一方、販売、生産・製造、輸送・機械運転、建設・採掘など勤務場所が現場に限定されるような職務とテレワークは統計的に有意な関係はない。
 また、仕事やタスクの特徴をみると、「新規開拓や付加価値向上を目標にする仕事」、「社外の人と協力して行う仕事」、「メンバーのタスク・時間の使い方を把握・共有」をしている人はテレワークをより利用していることがわかった。
 さらに、勤め先の環境に着目すると、場所に関して多様で柔軟な制度がある企業で働く人はテレワークをより利用している。また、テクノロジーの導入数の多い企業(新たなテクノロジー導入に積極的な企業)で働く人ほどテレワークをより利用している。
 こうしたテレワークの利用傾向から次のようなことが言える。
  1. 通勤時間が長い、子供がいる、介護を要する家族がいるといった従業員がよりテレワークを利用するという従来型のテレワーク活用が確認された。
  2. 営業職など社外との関係が重要な仕事をしている人がよりテレワークを活用している。
  3. テレワークは集中力や創造性が必要な職務により適合するという仮説は、特に、企画・マーケティング職、クリエイティブ職といった職種についている人や「新規開拓や付加価値向上を目標にする仕事」を行っている人で実証された。
  4. チームメンバーの仕事の把握ができている人はテレワークをより利用しており、テレワークの欠点であるコミュニケーション不足の解消がその促進につながることがうかがえる。
  5. テレワークを利用できる環境を整え、新たなテクノロジーの導入に積極的な企業ほど従業員がテレワークを利用していると思われ、企業側の環境整備が重要な役割を担っている。
テレワークは残業時間を増やすかどうかの分析
 次に、テレワークの利用は残業時間を増やすかどうかを検証した。図表2は、図表1と同様にビジネスパーソン1万人調査2018を利用して、残業時間の決定要因をOLS(最小2乗法)で回帰分析した結果である。被説明変数は、2017年における1カ月当たりの平均残業時間を用いた。
図表2 テレワークの労働時間への影響
 図表2のモデル1で示したように、様々な要因をコントロールすると、テレワークを利用しているかどうかのダミー(利用していれば1.利用していなければ0)は残業時間には有意には影響していないことがわかった。このため、テレワークが残業を増やすとは言えない。現状では、テレワークによる長時間労働は全体として過度に懸念する必要がないと言えよう。
 一方、図表2のモデル2~モデル5で、テレワークダミーと他の説明変数の交差項(説明変数に追加している「〇〇(説明変数)×テレワークダミー」)を入れてみると、回帰係数が有意だった交差項が2つあった。1つはモデル2での管理職×テレワークダミーである。その係数は正で有意(5.04で有意水準は5%)だった。管理職の場合、役職なしの人に比べて残業時間が長くなっているが、テレワークなどを行っている人は更に残業時間が長くなっていることが明らかになった。管理職でのテレワークの利用にあたっては、こうした傾向があることに注意が必要である。
 もう1つは、モデル4の営業職×テレワークダミーである。係数は負で有意(-8.69で有意水準は5%)だった。その絶対値(8.69)は、営業職ダミーの係数(2.32)を上回っている。営業職の場合、テレワークを利用していない人は比較対象の事務職に比べて残業時間が長いが、テレワークを行っている人は逆に事務職よりも残業時間が少なくなっていることがわかった。このことは、テレワークによって従来に比べ場所を選ばない働き方ができるので、職場の外での活動が重要な営業職にとって効率的な働き方ができ、むしろ残業時間を減らすことができることを示していると言えよう。
分析を踏まえた5つの提言
以上の分析を踏まえて次の5点を提言したい。  
  • 第一は、企業・従業員ともテレワークの意義、必要性を正しく理解することが必要であるということだ。テレワークは多様な働き方が選択できることから、従業員の満足度は上昇するし、企業もテレワークの最も重要な目的は生産性の向上と理解するべきである。
  • 第二は、その目的を達成するために、テレワークの対象者は育児・介護の必要な者に限定するのではなく、全従業員にするべきであるという点である。
  • 第三は、テレワークの企業側からみた問題点を克服するためには、ICTなど新たなテクノロジーの徹底活用がカギであるということだ。
  • 第四は、テレワークという環境がより適合する職務・仕事などにおいては、テレワークをより積極的に活用すべきであるということだ。例えば、職場の外での活動が重要な営業職や、新たなアイデア、創造性、集中力がより必要とされる職務・仕事などである。
  • 第五は、個々の従業員に対し過重労働にならないようきめ細かくモニターしていく必要であるということである。テレワークの長時間労働への影響については、全体として大きな懸念はないといえるが、テレワークでさらに残業時間が増加する役職・職務・仕事(例、管理職)もあることは否定できないからである。
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鶴 光太郎
慶應義塾大学大学院商学研究科教授。
東京大学理学部数学科卒業。
オックスフォード大学 D.Phil.(経済学博士)。
OECD経済局エコノミスト、経済産業研究所上席研究員などを経て、2012 年より現職。経済産業研究所プログラムディレクターを兼務。
内閣府規制改革会議委員(雇用ワーキンググループ座長)(2013~16年)などを歴任。主な著書に『人材覚醒経済』、日本経済新聞出版社、2016(第60回日経・経済図書文化賞受賞)ほか。

滝澤 美帆
学習院大学経済学部経済学科准教授。
2007年3月一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位修得退学(博士(経済学))。
日本学術振興会特別研究員(PD)、ハーバード大学国際問題研究所日米関係プログラム研究員、東洋大学経済学部教授などを経て現職。
専門はマクロ経済学、企業行動の実証分析。

 
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