株式会社日経リサーチ

働き方改革の従業員への影響
~労働時間、ウェルビーイング
従業員の意識から人材活用の効果を分析

【連載】日経「スマートワーク経営」調査2018 分析と先進事例(13)
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 企業競争力を高めるには、企業が制度・しくみを整えるだけでなく、従業員の共感・働きがいを高めることが重要です。日経「スマートワーク経営」調査2018で実施した「ビジネスパーソン1万人調査」の結果から、従業員の意識を通して、スマートワーク経営を支える人材活用の効果と課題を浮き彫りにします。
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ポイント
  • どのような施策が労働時間の減少につながりやすいかを検証すると、労働時間適性化施策数や生産性向上施策を多く導入している企業ほど、労働時間の減少が顕著であることが示される。
  • 企業による働き方改革の実施後に従員のウェルビーイング指標がどのように変わりうるかを検証すると、効果が生じる期間には違いがあるものの、企業による働き方改革は働きやすさの向上などを通じて、従業員のウェルビーイングを高める効果があることが示唆される。
山本勲

山本勲
慶應義塾大学商学部教授

 現在、多くの上場企業で、働き方改革を目指し、柔軟な働き方や女性活躍、ワークライフバランス、健康経営の推進など、さまざまな施策が行われている。こうした取り組みは、従業員の働き方やウェルビーイング(仕事のやりがいや企業への定着志向、ワークエンゲイジメント)にどのような影響を及ぼすのだろうか。
 ここでは、まず、どのような施策が労働時間の減少につながりやすいかを明らかにし、その上で、働き方改革と従業員のウェルビーイングの関係を分析する。
 どのような働き方改革の施策が労働時間の減少につながりやすいかについては、上場企業を対象に実施した日経「スマートワーク経営」調査2018の回答企業ごとのデータを使って確認したい。具体的には、2016年から2017年にかけての労働時間の変化を被説明変数、労働時間適性化施策や生産性向上施策などを説明変数とした回帰分析を行った。推計結果は図表1のとおりである。
 労働時間適性化では8つの施策、生産性向上では11の施策について尋ねているが、図表1では、労働時間適性化、生産性向上それぞれについて、①企業が実施した施策数②各施策を導入しているかどうか(導入している場合を「1」、導入していない場合は「0」の値をとるダミー変数=一部は複数の施策を統合)――を説明変数とした4つの回帰分析を行っている。
図表1 労働時間変化に影響を与える各種施策の推計結果
1) 生産性向上への意識改革研修・セミナー&業務効率化策の全社共有&人事部主導による無駄な業務の削減運動
2) 会議室の利用状況のリアルタイム可視化&クラウドやモバイルPCによるペーパーレスの推進&社内申請の電子化
  • (資料)「スマートワーク経営調査2018」より筆者作成
  • (備考)1.サンプルサイズ444。
  • 2. ***、**、*印は1%、5%、10%水準で統計的に有意なことを示す。
  • 3. いずれの推計も業種ダミーと企業規模ダミーも説明変数に用いている(掲載省略)。
 図表1をみると、労働時間適性化施策数はマイナスに有意となっており、係数の大きさから労働時間適性化施策が1つ多くなると年間労働時間が3.7時間減少することがわかる。年間労働時間の平均値は2010時間程度のため、労働時間の長さを大幅に短くすることは期待できないものの、年間労働時間変化の平均値が-5.0時間程度であったことを踏まえると、2016年から2017年にかけての労働時間の減少に対して施策が大きく貢献したと判断することもできる。
 具体的な労働時間適性化施策については、減少する残業代の補填と所定労働時間の短縮に関するダミー変数の係数が有意にマイナスとなっており、これらの施策が労働時間減少につながった可能性がある。減少する残業代の補填は施策導入率としては4%と極めて低いものの、推計された係数(-19.5)から判断すると、この施策を実施している企業では年間労働時間が19.5時間減少したことになり、影響度合いが大きいといえる。
 一方、生産性向上施策についても、施策数の係数はマイナスで有意であり、係数からは、施策が1つ多いと1.3時間、年間労働時間が短くなることになる。また、個別の施策についてみると、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型業務の自動化、全社的な業務改善(生産性への意識改革研修・セミナー、業務効率化策の全社共有、人事部主導による無駄な業務の削減運動)に関するダミー変数の係数が有意にマイナスとなっている。つまり、生産性向上施策としてRPAといったテクノロジーを活用したり、研修・セミナーや業務効率化策の全社共有、無駄な業務の削減運動を行ったりすることが、結果的に労働時間の減少につながることを示唆しており、特筆に値する。効率化とセットで労働時間の削減を進めることで、企業にとっても生産性向上という形で働き方改革のメリットが生じることになり、持続可能な働き方改革が実現できるといえる。
 なお、図表1での推計は、単純な最小二乗法を用いているため、各種施策が「原因」ではなく、労働時間変化の影響を受ける「結果」である可能性、すなわち、逆の因果性が反映されている可能性も否定できない。ただし、逆の因果性としては、労働時間が増加したから各種施策を導入するといったメカニズムが考えられ、その場合、各種施策の係数はプラスに推計されるはずである。各種施策の係数はマイナスに推計されていることを踏まえると、ここでは逆の因果性の影響は軽微であると考えられる。
 次に、働き方改革と従業員のウェルビーイング(仕事のやりがいや企業への定着志向、ワークエンゲイジメント)やそのアウトカム(成果)指標の関係を、上場企業の正社員を対象に実施した「ビジネスパーソン1万人調査2018」の回答データを使って検討する。
 この調査では、従業員の仕事のやりがい(「自分の仕事にやりがいがある」)や企業定着志向(「今後もこの会社で働き続けたい」)、ワークエンゲイジメント(「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「仕事に熱心である」「私は仕事にのめり込んでいる」)といった指標を利用することができる。ワークエンゲイジメントは、ポジティブなメンタルヘルスの状態を捉える指標として開発されたUWES(Utrecht Work Engagement Scale)の3項目版(UWES-3)を用いる(Schaufeli et al. [2008])。この尺度は活力・熱意・没頭に関する3つの質問項目から構成されている。
 これらの従業員レベルのウェルビーイング指標が、企業による働き方改革の施策によってどのように変わるかを回帰分析によって確認したい。使用するデータは日経「スマートワーク経営」調査2018の回答企業が勤務先である回答者に限定した(サンプル数は3,447人)。
 企業の働き方改革に関する情報は、ダイバーシティー推進、柔軟な働き方、健康経営の3つの施策を利用する。いつから実施したかを把握できるため、過去の施策実施が現時点での従業員のウェルビーイングに与える影響を検証することができる。これによって、もともと従業員のウェルビーイングが悪いから施策を実施するといった逆の因果性を極力排除することができる。過去の時点のラグ構造(時間差)も把握するため、各施策の実施に関する説明変数は、1~3年前、3~5年前、5年以上前の3つに導入時期を分け、それぞれの場合で1をとるようなダミー変数を作成した。また、被説明変数であるウェルビーイングを示す各指標は、回答の選択肢が5段階のものと6段階のものがあるため、係数の大きさを比較しやすいように標準化した。
 推計結果は図表2のとおりである。ここでは、3つの施策の実施が「仕事のやりがい」、「企業定着志向」、「ワークエンゲイジメント」の3つの指標に与える影響度合いを、施策の実施時期別に棒グラフで示しており、統計的に10%水準未満で有意な場合は濃い棒にしている。これをみると、ダイバーシティー推進は5年以上前に実施しているとすべてのウェルビーイング指標が有意に高くなるほか、柔軟な働き方と健康経営は、1~3年前に実施した場合でも、仕事のやりがいや企業定着志向を有意に高める傾向があることがわかる。
図表2 各種の働き方改革と労働者のアウトカム指標の関係

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  • (資料)「スマートワーク経営調査2018」および「ビジネスパーソン1万人調査2018」より筆者作成
  • (備考)1. ***、**、*印は1%、5%、10%水準で統計的に有意なことを示す。
  • 2. 企業データとマッチできた3,583サンプルを用いて推計。
  • 3. いずれの推計も男性ダミー、大卒ダミー、勤続年数、年齢層ダミー、転職経験ダミー、未就学児ありダミー、
  • 介護必要家族ありダミー、過去数年の売上高増減、役職ダミー、職種ダミーも説明変数に用いている(掲載省略)。
 このように効果が生じる期間には違いがあるものの、企業による働き方改革は、働きやすさの向上などを通じて、従業員のウェルビーイングを高める効果があると示唆される。この調査を使った分析では、ダイバーシティー推進と柔軟な働き方が企業の利益率を高める効果は確認できなかったものの、ここでの分析によって、従業員のウェルビーイングを高める効果が検出されたことは特筆に値しよう。企業の直接的な利益には必ずしもつながらないとしても、ダイバーシティー推進や柔軟な働き方は従業員にとってプラスの影響があるといえる。
 次に、「ビジネスパーソン1万人調査2018」のすべてのサンプルを用いて、従業員が回答した企業の働き方改革に関する各種の施策の有無とウェルビーイング指標との関係を検証する。具体的には、ダイバーシティーを推進、多様で柔軟な働き方、ワークライフバランスのいずれかを実現する全体的な取り組み・制度について、実施・導入を1とするダミー変数を作成し、説明変数として用いる。ウェルビーイング指標は上の3変数をそれぞれ被説明変数として用いる。
 推計結果は図表3のとおりである。ダイバーシティー推進については女性・高齢者・外国人労働力の活用が、多様で柔軟な働き方については時間に関する柔軟な制度や両立支援制度(育児と仕事および病気の治療と仕事)が、ワークライフバランスについては長時間労働是正策や過重労働・健康障害の防止策などが、ウェルビーイングの各指標(仕事のやりがい、企業定着志向、ワークエンゲイジメント)とプラスで有意な相関関係があることがわかる。
 なお、ここでの検証は一時点の横断的なデータを用いた単純な推計のため、因果関係の特定にはパネルデータの蓄積を待って再検証する必要があるが、図表3は、働き方を改める各種施策が従業員のウェルビーイングを高める効果があることを示唆しており、注目される。
図表3 各種の働き方改革と労働者のアウトカム指標の関係
  • (資料)「ビジネスパーソン1万人調査2018」より筆者作成
  • (備考)1.サンプルサイズ8,895。
  • 2. ***、**、*印は1%、5%、10%水準で統計的に有意なことを示す。
  • 3. いずれの推計も男性ダミー、大卒ダミー、勤続年数、年齢層ダミー、転職経験ダミー、未就学児ありダミー、
  • 介護必要家族ありダミー、過去数年の売上高増減、役職ダミー、職種ダミーも説明変数に用いている。(掲載省略)
■参考文献
Schaufeli, W. B., Shimazu, A., Hakanen, J., Salanova, M., & De Witte, H. (2017) “An Ultra-Short Measure for Work Engagement: The UWES-3 validation across five countries,”European Journal of Psychological Assessment. Advance online publication.
黒田祥子・山本勲(2019)「長時間労働是正と人的資本投資との関係」RIETI Discussion Paper Series 19-J-022
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山本勲
慶應義塾大学商学部教授
ブラウン大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。
日本銀行調査統計局、同金融研究所企画役等を経て現職。専門は労働経済学。主な著書に『労働時間の経済分析』(共著、日本経済新聞出版社、2014年)、『実証分析のための計量経済学』(中央経済社、2015年)。
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