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コロナで弾みつくデジタル経済化東南アジア、変わる個人の消費行動

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、社会のあり様や個人の生活、意識が大きく変わった。日本企業とつながりの深い東南アジア各国で目立つ日常の変化は、オンラインショッピング(Eコマース)の広がりだ。スマートフォン決済の普及と合わせ、デジタル経済化に弾みがついている。日経リサーチは東南アジア6カ国にインドを加えた7カ国の消費者2000人を対象に緊急調査を実施し、コロナ禍による生活や意識の変化を探った(詳細は『東南アジア 消費者のおカネ・お財布 リポート』に収録。下記から全編ダウンロードできます)。

オンラインショッピング、一気に広がる

 7カ国の緊急調査で日常の変化を聞いたところ、「収入が減った」「自宅勤務の時間が増えた」などが上位に上がった。「オンラインショッピングの機会が増えた」人も各国平均で半分近くおり、ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアでは5割を超えた。
 感染拡大を防ぐため、各国は相次いで外出禁止などの厳しい措置をとった。オンラインによる買い物が増えるのは当然ともいえるが、実はオンラインショッピングが急拡大する素地が東南アジアではできていた。2012年にシンガポールで設立されたラザダは「東南アジアのAmazon」と呼ばれ、シンガポールのほかインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムでサービスを展開している。ほかにもシンガポールを拠点に生まれた通販サイトが周辺国に顧客基盤を広げている(表1)。

表1)東南アジアの主なネット通販
会社・ブランド名 設立・サービス開始 特徴
Lazada(ラザダ) シンガポール 2012 地域最大の通販サイト、アリババ系
Qoo10(キューテン) シンガポール 2008 ショッピングモール型サイト
Shopee(ショッピー) シンガポール 2015 フリマアプリ機能も、周辺国に進出
ZALORA(ザローラ) シンガポール 2012 地域最大のファッション通販サイト
Dahmakan(ダマカン) マレーシア 2015 フードデリバリー、楽天が出資
Dekoruma(デコルマ) マレーシア 2015 家具・インテリアのサイト運営
Tokopedia(トコペディア) インドネシア 2009 同国最大の通販サイト

 米グーグル、シンガポール政府系投資会社テマセク・ホールディングス、米コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーは昨年10月に共同で、東南アジア主要6カ国を対象に将来のデジタル経済の市場規模を予測した調査リポートをまとめた(e-Conomy SEA 2019)。それによると、同地域のデジタル経済の市場規模は2019年の1000億ドルが2025年には3倍の3000億ドルに拡大するという。
 国別ではインドネシア(1340億ドル)、タイ(500億ドル)、ベトナム(430億ドル)、シンガポール(280億ドル)などの順。最大のインドネシアのデジタル経済の市場規模1340億ドルのうちEコマースが820億ドル(2019年見込み比3.9倍)、旅行予約サイトが250億ドル(同2.5倍)、配車サービスが180億ドル(3倍)などと予測する。コロナ禍による生活様式の変化で、経済のデジタル化はこうした予測を上回るペースで進む可能性が大きい。

スマホ決済に拡大余地

 オンラインショッピングと並んでデジタル化の進展が見込まれるのがスマホによる電子決済だ。先進国のシンガポールを除き、東南アジア各国では銀行口座やクレジットカードの保有率が日米欧の先進国と比べて低い。所得水準が高くないうえ、与信審査の仕組みづくりも進まなかったためだ。スマホ決済はこうしたハードルを一気に越える可能性がある。固定電話回線が十分に整備されなかったために、携帯電話の普及が一気に進んだのと同じ構図だ。

表2)東南アジアの主なスマホ決済
会社・ブランド名 設立・サービス開始 特徴
GrabPay(グラブペイ) シンガポール 2017 親会社は配車アプリのGrab
TrueMoney
(トゥルーマネー)
タイ 2014 アリババ出資、セブンイレブンと協業
OVO(オボ) インドネシア 2016 グラブ、トコペディアと提携
GoPay(ゴーペイ) インドネシア 2016 親会社は配車アプリのGo-Jeck
MoMo(モモ) ベトナム 2007 業界大手Mサービスの決済サービス名

 東南アジアで特徴的なのは、配車サービスの2強であるシンガポールのグラブとインドネシアのゴジェックがスマホ決済で存在感を示していることだ。配車サービス自体は外出禁止・自粛措置の影響で、各国市場で苦境に立たされた。
 ただ、配車アプリを起点に始めた決済ビジネスは、日常生活で使うサービスを一括で扱う「スーパーアプリ」の中核となりうる。決済サービスを軸に金融全般に機能を拡大できれば、さまざまな個人向けのサービスがオンライン上に載った「グラブ経済圏」「ゴジェック経済圏」の構築も視野に入る。三菱UFJ銀行がグラブに800億円出資することを決めたのもその将来性を買ってのことだ。一方のゴジェックは6月3日、米フェイスブックと米決済大手のペイパルから出資を受けると発表した。同社はこれまでグーグルや中国テンセントなどから出資を受けてきた。さらなる調達資金で事業拡大に弾みをつける。
 中国ではここ数年で急速にデジタル経済化が進み、アリババやバイドゥ、テンセントといったIT企業が急成長した。これらのプレーヤーも巻き込みつつ、東南アジアのデジタル経済化が加速するのは間違いない。消費者の行動の変化をつかむうえでも、企業の動向から目が離せない。
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 外出禁止などの厳しい措置をとってきた東南アジア各国では経済が動き始め、ニューノーマル(新常態)と呼ばれる新しい生活様式が定着しつつあります。日経リサーチは、日本企業にとって関係の深い東南アジア各国の消費者行動・意識の変化を今後も追っていきます。

(取締役国際調査本部担当 橘高聡)

東南アジア消費者のおカネ・お財布リポート
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東南アジア消費者のおカネ・お財布リポート

東南アジア6カ国にインドを加えた7カ国の消費者2000人を対象に実施した調査結果をまとめた資料です。

 

  • コロナ危機、中間層に打撃 消費行動の変化を注視
  • 新型コロナウイルスによる消費行動の変化
  • 家計を支えているのは?
  • キャッシュレス決済の浸透状況は?
  • どのようにお金を増やす?
  • 貯蓄の目的は?いくらお金をためている?
  • ローンの利用状況は?
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