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「調査」と「観測」~世論のゆくえ「世論観測」はじめました(4)サンプリングと集計方法

このコラムの第2回でも触れたが、世論調査と世論観測ではサンプリング方法が異なっており、これに関連して集計の際のウエイト(重み)をつける手法も異なっている。今回はこの点を掘り下げて解説する。すでに触れたように、サンプリングの第1段階である電話番号の作り方は、世論調査も世論観測も同じRDD法で違いはない。異なるのはその先の、調査対象者の選定とそれに対応した集計時の重みづけの方法だ。

世論調査では、固定電話に架電した場合、はじめに、電話口に出た人に居住している有権者の人数を確認する。そのうえで、調査対象者が偏らないように、あらかじめ電話番号ごとに決めておいた乱数表を使って1人を調査対象者に決める。当社の場合は、年齢が上から何番目の人と規定している。この手続きをせずに、電話口に出た人を誰でも対象にすると、調査対象を「無作為に」選んだことにはならず、対象者にどのような偏りがあるのか評価できない**。世論観測で使うオートコール調査は電話番号こそRDD法で作られているものの、この対象者の無作為抽出ができないため、無作為抽出でのサンプリングは完成しない。

もう1点、固定電話では、居住している有権者の人数によって、調査対象となる確率が変わるという事実がある。1人暮らしの場合は必ず調査の対象となるが、2人暮らしの場合は調査対象者が無作為に選ばれるため、調査対象となる確率は1人暮らしの人の1/2となる。このため世論調査では、居住している有権者の人数にあわせて、集計時に重みをつけることで、人数によって調査対象となる確率が変わることに伴う影響を排除している。世論調査では携帯電話も含めて調査をしているので、携帯電話の保有も含めた計算を行っている。

例えば、固定電話を持たず、携帯電話も1台しか持っていない人に比べて、携帯を2台持っている人は調査対象となる確率が2倍になるため、1/2の重みをつけて集計する。2人暮らしで自宅に固定電話があり、携帯電話も1台持っているとすると、調査対象となる確率は1.5倍になる(携帯電話にかかってきた場合は100%自分が対象になるが、固定電話にかかってきた場合は50%しか対象にならないため)ので、1/1.5の重みをつけて集計する***

しかし、世論観測で使うオートコール調査はそこまではやっていない。携帯や固定の保有状況をなぜ調査の中で聞くのか、電話口では説明できないため、それを聞く必要性を理解できない調査対象者に拒否感を持たれる恐れがあるからだ。従ってオートコール調査では抽出確率の違いによる補正をやらないこととした。

これは世論調査としては重大な問題点になるが、世論観測では問題にならない。その理由は前回コラムに記述したように、この補正を行ったとしてもサンプルに代表性がないことには変わりがないからだ。前回コラムにあった固定電話と携帯電話の比率の調整は、デメリットが特になく、科学的な根拠のある割合を採用することで調査の信憑性を高める効果があることから、実施した。今回のサンプリングと集計の際の対応は、調査対象者に負荷をかける(回収率を下げ、サンプルの偏りを更に増幅させる原因になる)デメリットがある割に、信憑性を高める効果は薄いため、実施しないほうがよいと判断した。

そのうえで、代表性のないサンプルに対する調査であることを念頭に、調査の結果を活用することにした。その適切な方法として提示した分析・活用のフレームが、「世論観測」という概念なのである。

(世論調査部長 佐藤寧)


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世論調査のルール(1)「無作為抽出」

** この影響を分析した研究として
土屋隆裕 RDD調査における世帯内抽出法の比較実験 2007 統計数理第55巻第1号 143-157

*** 具体的には
槙純子 シングルフレームによる固定電話・携帯電話併用式RDD調査 社会と調査 第18号, 2017年:62-73

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