株式会社日経リサーチ

従業員一人ひとりが主体的に行動する組織に変わるには
大丸松坂屋百貨店の取り組みから

【連載(9)】日経「SDGs経営」調査2019 分析と先進事例
日経SDGs日経リサーチは日本経済新聞社が2019年に初めて実施した「SDGs経営」調査の結果を独自に分析しました。「SDGs戦略・経済価値」「社会価値」「環境価値」などテーマごとの日本企業全体の取り組み状況や、高評価企業の取り組み事例について紹介します。掲載は毎週木曜日、10回を予定しています。
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第1回「SDGs経営」調査で、「SDGsへの貢献に取り組む上での課題」を複数回答で聴取したところ、「経営層から一般社員に至るまでが会社の経営理念や事業と関連づけてSDGsを理解し、行動すること」が66.2%でトップになりました。
 
泉もも氏
大丸松坂屋百貨店
ESG推進担当事務局
泉ももさん

SDGsを企業による価値創造やイノベーションにつなげるためには、その担い手である従業員にいかにして自発行動的な取り組みを促すかが非常に重要であるといえます。今回は企業のお悩みが多い、従業員一人ひとりがSDGsを理解し行動を起こす、そのための仕掛けについて、J.フロント リテイリンググループ(以下JFRグループ)の主要事業会社である(株)大丸松坂屋百貨店の総務部CSR・内部統制・環境マネジメント担当 ESG推進担当事務局 部長  中村康隆様と同ESG推進担当事務局スタッフ 泉もも様にお話を伺いました。

SDGsの社内浸透活動ではどんな方針で取り組んでいますか。

中村 SDGsをどう理解し行動するかが重要なので、大丸松坂屋百貨店(以下、大松)はこの1、2年、個人の行動変容を促すため、背中を押す取り組みを意識してやってきました。おかげさまで自分ゴト化が進み、SDGsはある程度実装され、結果も出てきています。まず、人と人とがコミュニケーションをとりながら理解を深めていくことが大切なので、社内のSNSを積極的に使って双方向で色々な情報を交換しています。一方事務局としては「どんな活動がサステナビリティにつながるかを皆で考え、お互いが自分たちに置き換えた場合に何ができるのか?」という発想になるような仕組み作りに注力しました。それと情報共有による個人行動の見える化も進めています。一人ひとりが社内に向けて「私は今年こういうことをする」というメッセージを発する場を社内SNSで作り、それを常時意識してアクションにつなげていくため、個人が携帯できる「未来をつくるパスポート」を発行、今後は個人のアクションに応じて付与されるSDGsバッジを全員がつけられるように更なる啓発と準備を進めています。バッジはただつけるだけでなく、自分の宣言を行動に移していく意思表示でもありますし、お客様とのコミュニケーションツールにもなっていくでしょう。

どんな課題を認識されていましたか。

 大松で働くグループ従業員約4千人に加えて店頭で働くお取引先の販売員様が全店合計で約4万5千人いらっしゃるのですが、その方たちにもJFRグループのサステナビリティ方針や当社のSDGs活動がしっかり伝わっていないと、お客様やステークホルダーに何も発信できません。実は、昨年7月に社内で初めて実施した『ESGアンケート』で、方針やSDGsという言葉を知っている人は意外にも多かったのですが、「通常業務の中でSDGsや社会課題を意識して行動している人」になると10%台に急減し、「プライベートで特に行動していない人」が残念ながらとても多く、本当の意味で自分ゴト化されていない事が浮き彫りになりました。

改善に向けてどんな取り組みをされたのですか。

未来をつくるパスポート
未来をつくるパスポート
 冒頭中村が申した内容を具体的に説明させていただくと、5万人近い従業員に、会社の考えを本業の中で自分ゴトとして捉え、実現してもらうために、まずは意識付けとしてポケットサイズの「未来をつくるパスポート」を作りました。パスポートはSDGs17のゴールやグループと当社が取り組んでいるESG経営や5つのマテリアリティ(重要課題)について説明していますが、最も重要なのはそれらを「自分ゴト」にすることだと書いてあり、自身でアクションの目標を立てて、その結果を記録してもらうようにしました。これは一歩踏み込んで自分らしいアクションにトライしてもらうのが狙いで、具体的には17のゴールのどれかを選び、事務局で挙げた事例を参考に「仕事の中でできること」と「プライベートでできること」をお取引先販売員様も含め、皆さんに1つずつ書いてもらっています。

それだけでアクションに結び付くのでしょうか?

 確かにパスポートを持っているだけでは、取り組みが自分自身の中で終了してしまうので、大松従業員についてはそれを、共有し、見える化する方法を考えました。JFRグループには「行動宣言」といって、年1回、’非連続な成長に向けて自分ができること’を宣言するのですが、大松は独自に「大松ESG宣言」を追加し、先ほどご説明した「未来をつくるパスポート」に記載した2つのアクションを社内SNS上で発表してもらいました。そうすると、この人はああ見えて実はこんなことをプライベートでやっているんだなと知らない一面に気がついたり、志が同じ人同士については本業でシナジーを生み出す事も可能になりました。
中村 パスポートは毎年更新していますが、今年は会社の方針の押し付けではなく、個々人で目標を立てて貰っていることが最大のポイントです。ただ、常にやり続けていないと、周囲にも影響を与えられるようなレベルにはそう簡単にいけないので、その人なりにやり遂げられるような目標を立てさせ自分自身で評価してもらうようにしています。
STUDY ESG
STUDY ESG

 「STUDY ESG」といってESGを楽しむプロジェクトも稼働させており、コンテンツは今、5つあります。共感できるようなESGあるあるを紹介する4コマ漫画をはじめ、各店の代表が集まって社内横断型のプロジェクトチームを作りました。そこではフードロスを解決するための勉強会を月1回開催して、実際に店頭でお客様に働きかけを行うことにも今トライしています。それと「大松ESG宣言」とは別に、「大丸松坂屋ESG活動」というコミュニティーサイトを立ち上げて、約370人のメンバーが各店の活動を自発的に紹介し、成功事例を共有化しています。また、事務局からも必ずコメントをつけてフィードバックするようにしています。
中村 成績考課の面談でも、上長は部下が「行動宣言」と「大松ESG宣言」について、その期にどんな目標をあげたか把握・確認し、フィードバックすることになっています。

取り組みの成果もあがっているそうですね。

中村 先程泉が申し上げたアンケートを今年も7月に実施しました。JFRグループのサステナビリティ方針を「知っている社員」は昨年も85%いたのですが、今年は95%になりましたし、方針を「読んだことがある社員」は昨年60%しかいなかったのが、今年は80%になっています。「SDGsという言葉を知っている社員」は昨年の75%から今年は90%に上昇しました。今までの活動に対し、社内コミュニケーションに努めてきた結果だと感じています。
 「未来をつくるパスポート」を使った成果が出てきているのではないでしょうか。『日常業務の中で、何らかの行動を起こしているか』という質問に対し、昨年の調査では「起こせていないのは自分の業務に直結しないから」という理由が圧倒的に多かったのが、パスポートの中でSDGs17のゴールそれぞれについて我々の業務とつながる事例を掲載したところ、今年は「何らかのきっかけで意識し行動する」という人が8割近くにまで増えました。また、事務局としては「プライベートでも何らかの行動を起こす人」が大きく増えたのも、真に自分ゴト化されている証拠であり、大変嬉しいことですね。

今後はどういう方向に進む計画ですか。

ネイキッド
みやこ杣木のSDGsバッジ一般用とエヴァンジェリスト用
 これまで「未来をつくるパスポート」で’意識の醸成’を行い、社内SNS上で「大松ESG宣言」を行うことで個人アクションを’共有化’してきました。また、同時並行的に様々なコミュニティーサイトにおける情報共有や楽しめるコンテンツの連打を行うことで活動のうねりを作ってきましたが、いよいよ個人のアクション達成に対する’称賛’そして’見える化’のフェーズに進んできています。その手段として用いているのが他社さんも多くつけられているSDGsバッジです。着用自体は当初より構想に有りましたが、当社はお客様をはじめ色々なステークホルダーとつながりがある中で、生半可な気持ちではつけられません。よって、自分が立てた2つのアクションのうちどちらかをしっかり達成したと認識し、自分はOKだと思った人が、パスポートに達成日を記入して事務局に申し出るとバッジがもらえるような仕組みにしました。まずは穴の開いたタイプのバッジを9月以降、全員が着用できるように目指しています。
さらに、リーダーの創出にも取り組んでいきます。高い問題意識を持ち、店頭で率先して色々なことに取り組んでいるメンバーをエヴァンジェリストとして見える化し、もっと引き上げたいと考えています。その人たちに皆が頼って、一緒に何か協業したりできるようにします。もう少し先になりますが、本業の中でSDGsやサステナビリティに関するアクションをしっかり実現できている模範として部門長や店長に推薦された人や、各種推薦検定を自発的・意欲的に取得した知識習得者には、しっかり称賛しフィードバックする意味でエヴァンジェリストの証である穴が開いていないエキスパートタイプのバッジを付与します。

エヴァンジェリストの活動についてもう少し聞かせてください。

中村 1年間でここまで持ってくるには、組織活動だけでなく、そうしたリーダーシップのある社内のエヴァンジェリストたちが、環境など色々なテーマについて、店を動かし、実際に店頭でお客様に提供する商品・サービスをプロモートしていくようなアクションにつなげていってくれていることも大きいです。我々が側面でサポートしながら、啓発された個人が積極的に活動し、それに影響を受けたサポーターやフォロワーがどんどん活動を発展させている状況になっています。
 エヴァンジェリストの活動の一例として、東京店のイベントスペースで実施した「ネイキッド」という取り組みがあります。環境負荷削減のためお客様の同意を得たうえで裸のまま商品をお渡しするという内容で、これはソーシャルグッドな商品を売るイベントだったので、ご協力いただけた面はあるのですが、実際にお客様の7割に同意していただけたんです。大松としてもこの時代元来の百貨店という固定概念に囚われ過剰包装する必要はないということで、全社的にスマートラッピングの方向に舵を切る1つのきっかけになりました。また、梅田店ではLBGT関連のイベントを昨年実施しました。熱意を持ったエヴァンジェリストが関連団体に働きかけ、最終的には自ら講師となりお取引先販売員様にまで啓発研修を行ったことで、イベントの士気と精度があがり、結果として当事者のお客様の声からすごく学びと気づきがありました。ここでも当社として次にできることは何だろうと考えられました。エヴァンジェリストが先駆けて店頭で色々と貢献してくれるのは、会社の方向性を決める上ですごく大事です。そのへんも含めてエヴァンジェリストをもっと育てていきたいですね。

(聴き手:「SDGs経営」推進プロジェクト 中谷真由美)

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次回のテーマは「「SDGs経営」きらりと個性光る高評価企業の取り組み
ユニ・チャームにみる高得点指標と事例紹介」です。
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