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「調査」と「観測」~世論のゆくえ 「世論観測」はじめました(5) 自動音声応答(オートコール)調査の回収率

「オートコール調査は回収率が低いから低品質である」と言われることがあるが、今回のコラムではこの点について考察する。

オートコール調査の発信数と接続数は、例えば、2020年5月8日~9日に実施した世論観測の場合、固定電話はRDD法で作成した電話番号リスト(以下リストと記載)4658件に架電して接続は3221件(69.1%)で回収数は261件(全体の5.6%、接続の8.1%)、携帯電話は5300件のリストに架電に対して接続は2279件(43.0%)で回収数は256件(全体の4.8%、接続の11.2%)となっている。

一方、同じ週末に実施した定例の日経電話世論調査の発信結果を見ると、固定電話はリストに対する回収率が16%、接続数(オートコール調査と比較の基準を揃えるため、有権者が使っていないと判明した番号への発信も含む)に対する回収率は25%だった。また、携帯電話はリストに対する回収率が20%、接続数に対する回収率は40%だった。

オートコール調査の回収率を調査員が架電する電話世論調査の数値と比較すると、固定電話は1/3程度、携帯電話は1/4程度となっている。日経電話世論調査の回収率(固定と電話の合計)は40%台で推移しているので、オートコール調査の回収率をその1/3~1/4とすれば10%台前半という計算になる。この想定回収率は世論調査に携わっている人には、極めて低い数値に見えるかも知れない。ただ、ここで筆者は次の2点を指摘しておく。

まず、「10%台」という回収率は必ずしも調査結果が著しく偏っている証拠にはならない。確かに、回収率が低いということは、回収サンプルが偏っている「可能性」が高いことを示しているが、確実に偏りがあることを示しているわけではない。

筆者も企業に対して任意で協力を得る調査で回収率10%程度の調査結果を検証する機会がよくあるが、公表されている統計値などからみても違和感のない、企業全体の実態をよく反映した結果が得られている。また、世論調査でも1回目の架電段階で回収されたサンプルの回収率は10%程度であり、最終的に回収率を高めても数ポイントの差しか表れない。
世論調査ではこの数ポイントのずれを埋めるよう最大限の努力をして回収率を高め、精度の高い調査を目指すのだが、回収率が低い段階で調査を止めたとしても、結果が正反対になるような、解釈を誤るほどの誤差は生まれない。回収率の低さよりも、カバレッジ誤差のほうが調査結果の偏りに対しては深刻な影響があるというのが筆者の見解だ。

ただ、そもそもオートコール調査で回収率を気にかけること自体が実は無意味であることも指摘しておきたい。回収率が調査の品質を表すとは、調査対象サンプルが母集団の縮図となるようにサンプリングされているという前提があったうえで、回収率が高いほど回収サンプルは調査対象サンプルに近いものとなっている可能性が高いからこそ成立する理屈だ。

しかしながら、オートコール調査のランダムサンプリングは完成されておらず、調査対象は偏っていて、そもそも母集団の縮図になっていない。母集団の推計を目的とした調査では、このような状態で回収率を高めることに意味はない。これはWEB調査などでも同様のことがいえる。仮に回収率を高めたとしても、この偏った調査対象サンプルの傾向をより正確に示すことにしかならない。このような調査は回収率を気にすることなく、その調査の特性を最大限に活かせるように調査をコントロールすべきだ。

世論観測の場合、調査結果の時系列推移を観測することが大きな調査目的となっており、この目的を達成するためには、調査結果を安定させることが重要となる。そのためには、調査の実施手法を全て均一にすること(例えば、調査を実施する曜日や時間を揃えることなど)が回収率を高めることよりもはるかに重要になるのである。

(世論調査部長 佐藤寧)

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「2020年 緊急事態宣言下の世論観測レポート」p3

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