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日経ID会員に聞く「DXの実態」ー取り組みは大企業先行、規模、業種で差ー 人材不足顕著、成果は不十分ー

コロナ禍でテレワークが推進され、企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が関心を集めている。企業は現在DXにどう取り組み、どんな課題に直面しているのか。
日経リサーチは2021年1月、日経ID会員に対してDX実態調査を実施し、様々な規模や業種の企業に勤める2,000人近くから回答を得た。回答者はDX推進担当者だけでないため、原則として所属部門の状況、また質問によって会社全体の状況も尋ねた。

目的は「業務プロセスの再構築」~~手のつけやすさ重視か

DXに取り組む目的を4つの選択肢から選んでもらったところ、最も多かったのは「業務のプロセスを再構築し、生産性の向上・コスト削減・時間短縮をもたらす」。所属部門、全社ともに半数を超えた。
「従来なかった製品・サービス・ビジネスモデルを生み出す」や「既存ビジネスの顧客体験を向上する」が比較的低いのは、所属部署が製品開発や顧客接点と無関係な人も多いため。ただ、全社でも三分の一程度にとどまる。まずは手を付けやすい業務プロセスなどのDX化から掲げているとみられる。「いずれにも取り組んでいない」企業も15%に上った。

DXに取り組む目的

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売上高1億円未満、「何もしてない」4割 ~~企業体力で取り組みに大差

DX推進には資金が必要となる。そのため企業体力によって差が顕著で、売上高1億円未満の企業は40%以上がいずれのDXにも取り組んでいない。一方、売上高が100億円を超えると、90%以上の企業が何らかのDXに取り組んでいる。

いずれのDXも取り組んでいない比率(売上高別)

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情報通信企業、新サービスの開発に意欲

日経ID会員は所属業種が多様なため、業種ごとに目的を分析してみた。注目されるのが、全般には低い「従来なかった製品・サービス・ビジネスモデルを生み出す」「既存ビジネスの顧客体験を向上する」が、情報通信関連サービス業では高いこと。金融業では業務プロセス再構築が特に多い。

DXに取り組む目的【会社全体】(業種別)
  従来なかった製品・サービスを生み出す 既存ビジネスの顧客体験を向上する 業務のプロセスを再構築する 働く場所などを見直す いずれも取り組んでいない
全体       N=1,957 33.4 27.9 55.9 38.1 14.9
農林水産、エネルギー、建設/不動産        n=220 30.9 25.9 50.9 41.4 19.1
製造業       n=581 34.9 26.7 61.4 37.3 12.7
商業        n=186 30.1 26.3 57.0 34.4 18.3
金融業       n=256 38.7 36.3 63.7 40.6 8.6
情報通信関連サービス業  n=247 50.6 36.8 51.4 43.7 6.1
上記以外の非製造業   n=467 22.1 21.6 48.8 34.7 22.3
※全体のスコアと比較してスコアの高いセルはピンク、低いセルはグリーンに塗り分け(濃い色は±10%、薄い色は±5%)

施策はテレワーク6割、それ以外は低調

DXの目的達成のために、具体的にどのような施策に取り組んでいるか。
回答者の所属部門で最も多いのは「テレワーク」だが、過半数はそれのみ。テレワークに必要な「ペーパーレス化・押印廃止」も5割に達しなかった。上位2項目は企業規模を問わず同じで、どの企業もテレワークが先行しているのが実情だ。

所属部門におけるDX取り組みランキング
DXの種類 具体的な取り組み (%)
1 業務DX テレワーク 60.9
2 業務DX ペーパーレス化・押印廃止 49.5
3 業務DX 業務の自動化(RPA等の導入) 29.2
4 営業DX Web商談 25.4
5 DX土壌構築 DXを推進するための風土改善 20.5
6 商品・サービスDX 新事業・商品・サービス開発 19.4
7 DX土壌構築 DXを推進するためのITインフラ強化 18.9
8 商品・サービスDX 顧客行動分析・予測 18.2
9 商品・サービスDX 顧客体験向上 16.1
10 DX土壌構築 DXを推進するための人材・組織の改善・活性化 14.2
11 DX土壌構築 DXを推進するための人材教育 14.2
12 DX土壌構築 DX戦略策定 13.7
13 営業DX SFA(営業支援システム)の活用 11.7
14 業務DX デジタルデータを活用した予知保全、在庫圧縮、最適供給 9.1
15 営業DX MA(マーケティングオートメーション)の活用 7.3
16 DX土壌構築 DXを推進するための人事・評価制度等の見直し 6.1
  その他 1.0
  いずれも取り組んでいない 11.8

Web商談は順調だが、人材・組織が課題に

上記の施策の進捗ぶりを「順調に進んでいる」、「まあ順調に進んでいる」、「どちらともいえない」、「やや難航している」、「難航している」の5段階で回答してもらった。 「順調に進んでいる」「まあ順調に進んでいる」の比率はテレワークやWeb商談については割と高い。

  • 非対面の顧客商談は必要不可欠な環境にあり、比較的スムーズに導入できた(建設業/売上高1,000億円~3,000億円未満/役員クラス)

などの声が多かった。 一方、商品・サービスに関するDXや、その土壌構築については、順調との回答は少ない。

  • シニア層の抵抗、はんこなどオペレーション上の課題、ITリテラシーなどの解決に時間がかかっている(食品・医薬・化粧品/売上高3,000億円~5,000億円未満/課長クラス)
  • IT部門の人員不足や組織全体へのDX風土の浸透に非常に苦慮している(自動車・輸送機器/売上高100億円~500億円未満/課長クラス)
  • 新事業・商品・サービス開発はアイデア検討から先に進まない(情報処理・SI・ソフトウェア/売上高100億円~500億円未満/課長クラス)

と、人や組織の問題に直面し、進捗へのハードルは高い。

所属部門におけるDX取り組み 進捗ランキング

(取り組み中のうち、「順調に進んでいる」「まあ順調に進んでいる」と答えた比率の合計)

DXの種類 具体的な取り組み (%)
1 業務DX テレワーク 72.7
2 営業DX Web商談 67.6
3 業務DX ペーパーレス化・押印廃止 59.4
4 DX土壌構築 DXを推進するためのITインフラ強化 51.5
5 営業DX SFA(営業支援システム)の活用 46.7
6 業務DX 業務の自動化(RPA等の導入) 46.5
7 DX土壌構築 DXを推進するための風土改善 41.6
8 DX土壌構築 DX戦略策定 40.7
9 商品・サービスDX 顧客体験向上 37.8
10 業務DX デジタルデータを活用した予知保全、在庫圧縮、最適供給 36.3
11 営業DX MA(マーケティングオートメーション)の活用 34.3
12 DX土壌構築 DXを推進するための人材・組織の改善・活性化 33.5
13 商品・サービスDX 顧客行動分析・予測 32.8
14 DX土壌構築 DXを推進するための人材教育 32.5
15 DX土壌構築 DXを推進するための人事・評価制度等の見直し 31.9
16 商品・サービスDX 新事業・商品・サービス開発 31.1

既存システムや縦割りが大企業の足かせに

推進のうえでの課題は、人材・組織関連が上位を占め、中でも「人材・スキルの不足」は60%超に上った。
「既存システムによる制約」「既存システムの更新」は企業規模が大きい企業のほうがスコアは高い。売上高1億円未満の企業で「既存システムによる制約」と回答したのは16.7%だが、同1兆円以上では34.6%と倍以上。レガシーに足を引っ張られている様子が浮かび上がる。
企業規模が大きいことによる課題は「縦割り組織」にも当てはまる。売上高1兆円以上は30.2%が課題とし、同1億円未満は10.3%に過ぎなかった。

DXを進めるうえでの課題
課題(大項目) 課題 (%)
1 人材 人材・スキルの不足 62.2
2 コスト 費用対効果 32.6
3 インフラ 既存システムによる制約 31.6
4 組織 組織としてのビジョン・戦略がない 27.4
5 組織 DXを推進する組織・体制がない 23.6
6 組織 縦割り組織 22.9
7 インフラ セキュリティ面の不安 20.8
8 インフラ IT環境が未整備 20.5
9 インフラ データ収集環境が未整備/不足 18.7
10 組織 経営トップのコミットメント不足 16.9
11 インフラ 既存システムの更新 16.0
12 人材 社外パートナー不足 10.0
13 意識 そもそも必要性が分からない・現在のままで良い 3.1
  その他 2.8
  いずれも当てはまらない 3.4

「成果でている」2割。数年は手探り続く

DX推進でどれぐらい成果が得られているのか。4つの目的とも設定したKPIやKGI通りかそれ以上の成果が出ている企業は20%前後にとどまる。また、取り組みには企業規模で大きく差があるのに、成果はそこまでの差がない。
売上高1兆円以上の企業も3割以上は「KPI/KGIの設定がまだできていない」。コロナ禍でとりあえず始めることが先決だったという企業も目立つ。

  • DX活用の大きな目的は共有されているが、具体的な課題設定や解決には自信を持てない。人材教育、インフラ整備に今後数年は手探りが続く(素材/売上高1兆円以上/課長クラス)

のが実情のようだ。

所属部門におけるDX取り組み 具体的な成果

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日経IDリサーチサービスの特長

日経ID会員は日本経済新聞社のサービス登録者などで構成される日本最大級のビジネスパーソン対象のプラットフォームです。一般の調査モニターではアプローチが難しいビジネスパーソンや富裕層などを対象とする調査に特に適しています。

  • 役職者や意思決定層を含めてあらゆるビジネスパーソンにアプローチが可能
    日経ID会員には企業・組織の役職者や意思決定者から現場の各分野のスペシャリストまで、幅広いビジネスパーソンが登録しています。例えば一定以上の高い役職につく人たちや、特定の製品・サービスについての意思決定層など、一般の調査モニターでは数の確保が難しい対象者についても、回答を集めることが可能です。
  • ”気づき”につながるフィードバックに富む回答を収集可能
    日経ID会員は情報感度の高い層、学びに積極的で、仕事への課題意識が高い層が中心です。そのため特に定性的な回答(自由記述コメント)では、フィードバック力の高い”気づき”につながる回答の収集が期待できます。

 

※詳細はこちらをご覧ください。
https://www.nikkei-r.co.jp/service/btob/nikkeiid/

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