Report

医療機関とヘルスケア業界DXはどのように進む?

ペインポイント解消で普及する海外の遠隔診療

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日経メディカル編集長
山崎 大作氏

 

日本は医療のDXが遅れている。メディアでは繰り返しオンライン診療が日本で普及していないという議論がなされている。実際、日本経済新聞の報道によると、コロナの第4波の流行期だった今年1~3月にオンライン診療は35道府県で10万人あたり月1回未満しか使われなかった。ここには電話診療も含まれるから、コンピューターを介した、一般の人が想像するようなオンライン診療の利用者はごく少数にとどまっていたはずだ。受診する時間も関係ないし、感染リスクもないのに普及しないのは提供する医師側にやる気がないからだ、というのがメディアの主張だ。ただ、オンライン診療が普及している国を見ていくと、違う姿が見えてくる。
例えば、英国のPush Doctor社は2013年設立だから、日本でオンライン診療を手掛ける企業と大体同じ時期に立ち上がった。一部の医薬品の処方箋の発行や専門医の紹介もできるが、ここでポイントとなるのはPush Doctorを使うといつでも受診できることだ。英国では予約から受診まで通常2週間と言われるが、この仕組みを利用すると26分まで短縮できたという。他にも英国には遠隔診療サービスを提供する有力企業がある。
米国で2007年に創業したOne Medical社も遠隔診療サービスを提供する企業だが、その肝となるのはリアルとオンラインを組み合わせたサービスだ。米国は保険料や医療費が高いが、オンラインサービスとして提供することで、安価にいつでも受診でき、都市部ではリアルのクリニックも持っているので、必要に応じてリアルでも見てもらえる。要するに英国でも米国でも、遠隔診療サービスを提供することで、既存の医療システムが持つペインポイントの解消につながっている。

ニーズが十二分でない日本の遠隔診療

では、日本ではオンライン診療でどのようなペインポイントが解消するのだろう。

オンライン 診療では当然、検査はできないし、直接患者に触れるわけでもないので、診療サービスの質が上がるとは言えない。また、日本では希望すれば有名病院をいつでも受診できるし、待ち時間のない医療機関を選ぶこともできる。オンライン診療だからと言って、有名医師の時間がいつでも取れるわけでもないので、アクセスビリティも違いはない。費用についても、交通費はかからないが、そんなに変わらないと思う。米国の保険制度のようにインセンティブが働くほどの違いにはならない。
となると、誰が遠隔診療を使うのかがカギになってくる。もし40代で生活習慣病の薬をdo処方で出してもらっているなら、仕事を休むのも大変だから使うかも知れない。ただそれも、他の疾患のリスクが低いこと、慢性疾患でdo処方であることが前提になる。小児であれば医療相談で受診するかどうかの相談はあるかも知れないが、普通の診療だと、急性期の疾患がほとんどだろうから実際に見ないと分からないし、受診してすぐに薬がもらえないと困る。一方、高齢者は医療機関をサロンのように使っているので、実際にかかれないことはむしろマイナスになる。そう考えると、日本では遠隔診療のニーズは意外に限られる。そもそも電電公社の時代から、日本中の僻地で遠隔診療の実証実験が行われてきた。にもかかわらず具体的なサービスに入らなかったのは、そのニーズが十二分でなかったと考える方が自然ではないか。

マイナ保険証は普及するか?

実は、病巣はもっと根深いところにある。日本では医療のDXは 、こうすれば医療の質が上がるはず、より便利になるはずという話がベースになってサービスが提供されている。ただ、ユーザーのペインポイントが必ずしもきちんと理解されておらず、ユーザーに刺さっていないのではないかと、取材しながら感じている。
オンライン資格確認制度(マイナ保険証)の普及にも疑念がある。果たして医療情報を個人で持ち歩きたいと思っている患者がどれだけいるのか、PHRを自ら入力したい人がどれだけいるのか。利用者には保険証がマイナカードに変わったというサービスにはなるかも知れないが、そのための医療機関のインセンティブは低いだろう。特に、病院に対してはリーダーの支給が最大3台に限られているので、これでは受付はさばけないし、医療機関が追加で投資したくなるほどのメリットも享受できないだろう。
医療系シンクタンクの日本医療政策機構のウェブ調査によると、国民の6割が医療機関に満足している。ちょっと低いように感じるが、きちんと受診している人だけでアンケートを取ると、もう少し満足度は高くなるのではないか。その中で医療機関が更にサービスを上げて集患するためにDXを進めるのはちょっと難しいと思う。

GEも実証 進まざるを得ない医療機関のDX

ただ、医療機関のDX自体には可能性がある。例えば、愛媛県のHITO病院ではiPhoneを導入して音声入力による電子カルテの入力やカルテの閲覧をできるようにし、医師は医局の自分の机に帰らなくてもデータを確認して作業ができるようになった。しかもSNSでやり取りできるので、コミュニケーションの速度も上がったという。
現在、医療機関では一般企業より幾分遅れて働き方改革の波が来ようとしている。2024年に時間外労働では最大100時間未満、年間1860時間という縛りができる。今後、業務の見直しの観点からDX、単なるICT化ではない構造改革が行われるようになるだろう。
もう1つ、GEジャパンが岡山県の倉敷中央病院で行っているプロジェクトでは、各種の医療機器をIOT化することで、医療スタッフの導線や機器の稼働率を解析している。現場の負担増なしに、無駄を解析していく仕組みで、開始から1年の時点で超音波診断装置の6分の1がほとんど使われなかったという結果が出たそうだ。また、機器の使用状況から診療報酬の請求漏れが確認でき、増収にもなったという。医療機関は利益率が低く、収入に直結するものでないと投資が難しい状況にある。だが、改善によるコスト削減効果が見込め、質も向上するのなら、十二分に投資する理由が出てくる。このような医療機関のDXはどんどん進んで欲しいし、働き方改革や医療費削減の波の中で医療機関が生き残っていくためにも、進まざるを得ないのではないか。

デジタルデータを企業はどう活用するか

最後になるが、治療の方でもデジタル化が進んでいる。2014年にソフトウエアが医療機器として認められ、昨年はついにデジタルピルとしてソフトウエアが承認された。今、この領域は大変熱くなっている。医薬品の開発はどんどん難しくなっており、コストも上がっている。その点、ソフトウエア医療機器は安全性が高く、開発コストが相対的に抑えられるため、今後も更に流行するだろう。大手製薬企業も2018~20年あたりに相次いで、関連システムの開発会社と提携し、開発を進めている。
治療用アプリや院内DXの普及が進めば、実は、データベースの統一こそできないものの、医療機関や患者が持つ様々な情報がデジタルデータになる。つまり国がオンライン資格確認でやりたいことが、自然にできてくる。企業側もどのような企業がどのようなデータを持っていて、それを使えば何ができるのかを今後は常に考える必要がある。
オンライン資格確認制度とその周辺にあるサービスの普及は難しいものの、医薬品や医療機器のデジタル化が進むことにより、類似する情報の収集は可能になると思う。また、医療機関の業務フローに関してはDXが進み、関連データは多く集まるのではないか。結果として、それらのデータを活用した新規の事業は考えられるだろう。

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