Report

事業成果につなげるCX 海外先進企業から学ぶ -「CX向上セミナー」 CX最前線アメリカから現地報告(2)

今回はCXを事業成果につなげるためのポイントを3つ、事例を交えて説明する。 1つ目は、CXで重要なデータについて。よく日本企業から「顧客の声を活用できていない」と聞くが、声を集めっぱなしだったり、意図なしで集めたりしていないだろうか。
続いてKPIの設計(実践編)。そもそもCXと事業成果をつなげるKPIの設計ができていないケースをよく見聞きするので、実際にどう設計すれば良いのかを紹介する。
最後にモニタリングとアクション。各種指標の測定値をただ見ているだけでは意味がないので、どうやってモニタリングとアクションをセットで回していくか話す。

また、前回も提示したが、「ダメなCXは、ダメな製品より悪い」ということをこのシリーズ通して頭の片隅に置いて欲しい。特に今回は既存の事業・商品・サービスがある中で、どう取り組むかという観点になるので、大変重要である。

■CXは事業成果につなげてこそ

CXに取り組む際、事業成果につなげることは当たり前のことなのに、なかなかうまくいかないことがあると思う。「お客様は神様」としてただの御用聞きになっていたり、妄信的に顧客満足度のスコアを追いかけて体裁を整えることに陥ったりして、本来の目的である事業成果を見失ってしまうような状態になりがちではないだろうか。では、事業成果につなげるポイントとは何か。

1.CXで重要なデータ

「データなしで語れば、あなたはただの意見屋」という言い得て妙のビジネス格言がある。データという根拠がないといけないのはCXでも同じだ。
CXはどこか1つの部署で完結するものではなく、顧客との接点先全部、カスタマージャーニー全体を見ないといけないので、当然色々なデータが必要になる。その上でCXとなった時、顧客の声(VOC)が大事になる。コールセンターへの問い合わせやお客様アンケートはVOCの一部だが、実際にはデータは集まって来るものと自分たちで意図的に収集するものの2つに分けられる(図参照)。そしてVOCもそうだが、市場の動向まで含めて、きちんと意図的に収集しないといけない。

 

C8584_01

 
■顧客視点で一丸となって運営するヒースロー空港

ヒースロー空港は、年間8000万人が利用する巨大空港だが、数年前から真にカスタマーフォーカスな空港になろうと、CX活動の取り組みを本格的に始めた。スカイトラックスの空港ランキングでは元々上位にいたので、そこから更なる向上はなかなか難しいが、今ではトップ10に入っている。
最も注目したいのは同社の目線だ。かつてのCRM(CX)責任者は「空港は航空会社から小売り店舗まで様々なサービス施設が、独立した別会社として、一緒に集まって運営している。しかし、利用者は別会社とは見ておらず、ヒースロー空港という1つの組織として捉えている。その視点を共通認識として持たなければいけない」と言っている。だから、顧客アンケートなどVOCの収集も、そもそもの企画設計から収集後の結果分析まで、空港とそこに関わる300もの組織・事業体が一緒になってやっている。VOCがCX担当部門で閉じてしまったり、集めた結果を経営陣だけが見ていたり、といった話を時折見聞きするが、ここではそのようなことはない。

■市場動向を先取りするテトラパック

テトラパックは飲料や食品メーカーにパッケージング周りのソリューションを提供するBtoB企業である。グローバルでトップシェアを誇っており、かなり激しい競争環境の中でも2010~19年に売り上げなどの規模は約1.2倍と成長を続けている。
同社は数年前からCXプログラムを本格的に始めたが、スターティングポイントでの頭の切り替えが特筆すべきところだ。従来の直線的なバリューチェーンで考えると(左図参照)、BtoBtoCのパッケージングサプライヤーである同社は末端の消費者までの距離が少し遠く、直接的なつながりはないように見える。しかし、消費者を中心に考え直してみると、実は今や消費者はどのプレーヤーとも直接接点を持っていて(右図参照)、それが普通の時代になっている。だから自分たちも直接消費者と関係性を持たなければいけない。そう考えを改めた。

 

C8584_02

 

そして、同社は直接の顧客であるメーカーなどだけでなく、そこから拡張して消費者市場の動向も捉えようと、年間を通じて様々な調査を実施。その結果、例えば、人々の環境に対する意識が高まっていることやパッケージの情報を消費者は自分で調べていること、或いは環境に配慮した製品の認証ロゴなどがパッケージについているかどうかでブランドを選ぶこと、というような行動の変化を捉えられた。それで、CO2排出量や環境インパクトが分かる情報サイトへ飛ぶQRコードを記載したパッケージを提供するようになった。
例えば、あるメーカーの商品は環境配慮の認証ロゴがあるだけで売り上げが18%も増加したという。消費者がどう考え、どう動くのか、その動向を捉えること、すなわちBtoBtoCの同社が直接の顧客を超えて末端まで見据えることが、ひいては自分たちの直接の法人顧客のためにもなるという好例かと思う。

2.KPIの設計(実践編)

次にどうCXと事業成果がつながる形でKPIを作っていけるかを説明する。
その前に、CXのKGI、KPIは何だろうか。顧客満足度か、NPSか。
実はこれは引っ掛け問題で、質問自体がややピントがずれている。
なぜ問い自体がおかしいかと言うと、そもそも当然の話として、KPIやKGIは事業成果につながるものなのに対し、CXはどちらかというと思想・視点のようなものなので、事業成果を上げていく仕組みにどう“振りかけ”ていくかを考えるべきなのだ。
続いて具体的な事例でKPIをどのように作っていくか説明する。

 

■North Star GoalからKPIを設計する

いまや多くの企業がNorth Star Metricsという手法を採り入れている(図参照)。

 

C8584_03

 

KPIを作る時は図中の矢印とは逆の向き、右端のNorth Star Goal、天にきらめく北極星、ブレずに全員の共通目標となるものをまず設定し、左側へ進めていく。実はNorth Starの更に上にはパーパスや企業の使命、存在意義などがあり、そこと紐づいているのだが、今回は踏み込まない。
North Starに、例えばLife Time Valueを置く。そしてそのLife Time Valueを表す先行指標となるものを分解したのがその隣のMetricsである。このMetricsは現場レベルではKGIと思っていい。このKGIに紐づくものとしてKPIがあり、更に一番左側にあるのがLeversで、これが活動や施策となる。つまりLevers(レバー)を上下することにより、KPIを経てKGIが向上(逆効果の場合は低下)する構造になっている。
このような当たり前の話をあえて説明したのは、これがCXの文脈になると、途端に破綻するというか、このようなつながりを持って設計ができていない、うまくやれていない、ということが多くあるように思うからである。
KPI設計で陥りやすい落とし穴とでも言うべき注意点がいくつかある。
まず、LeversとKPI、Metricsは因果関係を持つ、直接的な関係性にないとダメである。さもないと、いくら頑張っても効果が測定できないとか、成果に結びつかないことになり、そもそも設計として意味をなさなくなる。また、North Starの設定で起きやすいのが、本質的に何を見ないといけないのかを忘れ、データに基づく議論・検討ができない状況になり、議論の収拾がつかなくなることだ。例えば、Life Time Valueだと、時間軸をどうするか。Life Timeと言っても一生は測れないので、事業年度にあわせて年単位でいいか、といった議論になりがちである。そして最後に、設計されたKPIは組織内で共通認識され、皆で向かう先となるが、組織のすべてのチームが平等に貢献できるようにはなっていないこともあるわけで、そのバランスや社内での伝え方、浸透のさせ方も実はCXが機能する上で、大事なポイントになる。

3.モニタリングとアクション

3つ目のポイントはモニタリングとアクションである。

■顧客の感情“Delight”も測るテトラパックのモニタリング

まず、先ほどのテトラパックがCXのKPI設計をしたあと、どうモニタリングしてアクションにつなげていくか説明しよう。
同社が商品を届けるプロセスにおいて、スピード・品質・コストは今も昔も変わらず大事で、揺るがない。その上でCX視点に立った際、全体のカスタマージャーニーをどう捉えるかと言うと、8つのタッチポイントに分けて考えている。そして、プロセス上の各タッチポイントの中に、パフォーマンスを見るものとしてそれぞれKPIを設定している。もちろんこれとは別に顧客側の評価も取得している。

 

C8584_04

 

まずはプロセス全体について測る満足度やNPSがあり、その上で個別のタッチポイントについてもそれぞれ顧客からの評価やDelightを測定している。Delightとは単なる評価項目の良い悪いではなく、顧客の感情的な部分を捉えたもので、例えば、商談が面白かった・楽しかったとか、提案に信頼感を高めるような資料があって安心したとか、気持ちの部分に踏み込んだ、いわば付加価値、プラスアルファのような部分になる。KPIやKGIは客観的な観測データで、Delightや満足度、CES、NPSは顧客からの主観的評価と捉えられる。
こうした設計をすると、各タッチポイントの間やタッチポイントからはみ出た抜け漏れなどが盲点になりがちなのだが、更に同社はそうした事態が起きないように気をつけている。例えば、商品の搬送では良い評価を得ているが、契約回りでは低い評価という設計上の盲点があったが、同社は別途VOCなど定性的な情報も収集し、それを踏まえながら、そうした抜け漏れを抑えるように努めている。

■内部パフォーマンスと顧客評価の両にらみで見直しを

この設計で測定したものを、どう見ていくのか。テトラパックは内部のパフォーマンス(=KPI)と顧客の主観評価を横並びにウォッチしている。これにより、単に各タッチポイントでの良い悪いではなく、自分たちと顧客の目線がきちんと合っているか、どこかにギャップがないかを気にかけられるようになる。

 

C8584_05

 

内部パフォーマンスと顧客評価の両方が良ければ、正に意図した通りに流れていて、うまく行っている状態と言える。気をつけなければいけないのは評価がちぐはぐな時で、1つは内部パフォーマンスが良いのに、顧客評価は低いパターン。これは多くの場合、自分たちの内部パフォーマンスの目標水準が甘過ぎたり、大事な要素が抜けていたりする可能性があるので、KPIを見直す必要がある。さもないと顧客評価とつながっていない状態になり、いくら頑張っても顧客評価は向上しない。
もう1つは日本企業が陥りやすいパターンかも知れないが、内部パフォーマンスが自分たちで設定した目標に届かず、もっと頑張らないといけないと思っている一方で、顧客からは高評価を受けている場合である。これはやり過ぎの状態が発生しているのではと考えられる。こう話すと、「顧客評価が良いのだから、別に問題ないのでは」とか「これ自体が一種の優位性やスイッチングバリアになっているのでは」といった声も聞こえてくる。もちろんそうした可能性はあるが、ここのテーマはモニタリングの方法なので、ギャップが生じているのに、その原因がよくわからないままモニタリングを続けていても意味がない。ギャップがあれば、その背景や状況、そこに何があるのかを見て、良い状態を目指して取り組むべきで、必要であれば、KPIも見直さなければならない。最後のパターンだと、顧客に聞いている評価軸で抜けている要素があったり、目標設定の水準が甘過ぎたり、といったことが考えられる。

最後にテトラパックで当時Customer Managementの責任者だった Eric Schmidt氏の言葉で締めくくりたい。

''『お客さまをdelightする』というのは、ひとつのタッチポイントだけのことではなく、カスタマージャーニー全体に渡って行うこと。''

カスタマージャーニーはタッチポイントごとに閉じているものではない。ヒースロー空港の事例でも触れたが、顧客は全部一体として見るので、提供事業者側としても全員一丸となって取り組まなければならない。

''80%の課題は小さな、すぐに出来ること。適切にマネジメントすることで、顧客に多くのdelightを届けられる。''

寄せられた顧客の要望にどう対応していくかについて説いているが、今回説明した通り、KPI設計とモニタリング、そしてギャップを発見したら、探索して対応策を考え、また新たにモニタリングしていく、これこそが、CXは回していくもの、という本質に触れているといえる。

顧客体験価値・満足度の向上でお悩みの方は
お気軽に相談ください

顧客体験価値(CX)を向上させることで
貴社の収益拡大を目指すプログラムです

「顧客体験価値(CX)向上プログラム」詳細はこちら
ico_information

課題からお役立ち情報を探す

調査・データ分析に役立つ資料を
ご覧いただけます。

ico_contact

調査の相談・お問い合わせ

調査手法の内容や、
調査・データ分析のお悩みまで気軽に
お問い合わせください。

ico_mail_black

メルマガ登録

企業のリサーチ、データ分析に役立つ情報を
お届けします。