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顧客の「期待外れ」は意外なところにある -「技術力」だけでは生き残れない!いま求められる顧客視点でのBtoBマーケティング【第1回】

事業環境が大きく変わるなか、法人向けのBtoB企業も新たな対応が求められている。これまで日本のBtoB企業は、圧倒的な技術力に依存した「シーズ志向」に陥りがちだったが、それだけでは、成長を維持・推進していくには不十分になっている。「技術力」という「必要条件」に加え、市場を顧客視点で深く理解し、顧客と製品・サービスをマッチングさせるマーケティングが欠かせない。BtoB企業が今後どのように「顧客視点でのマーケティング」を取り込むべきか。当社が2022年7月に実施した自主調査の結果(調査仕様は文末参照)を基に、3回にわけて解説していく。第1回は、顧客が「期待外れ」と感じる意外な点を調査からピックアップする。

自社視点の調査分析だけでは顧客は分からない

現在、多くの企業(BtoB企業でもBtoC企業でも)ではCS調査の結果やコンタクトセンターなどに寄せられた情報を基に顧客からの評価を把握している。 しかし、そのほとんどが「企業側の視点で考えられた接点」に対する評価を聞く形式である。確かに、この聞き方で得られた情報からでも顧客の意識を掴み、製品や各種サービスの「改善」「改良」に役立てることはできる。丁寧にPDCAを回せば、充分に成果を感じることができるだろう。企画開発、製造、営業などの個別部門の課題に分解して現場にフィードバックすることで、各現場での改善活動も活発になり、顧客の声を起点としたサービス改善活動をしっかり実施しているようにも見える。
しかし、デジタル化の進展や新サービスの興隆など外的環境は急激に変化している。気付かないうちに、顧客のビジネス環境や購買行動、事業領域が大きく変わっているかもしれない。これまでのように、提供企業側の視点では、顧客の意向を正しく理解することが難しくなっているのではないか。特に、BtoBの取引先企業は、海外も含めグローバル企業が多く、コンペティター(競合他社)も相当イノベーティブに動いている。競争・差別化は他の事業領域に比べても相当に激しくなっている。

顧客視点で不満や期待外れを顕在化する

顧客視点で考えるためには、広義のVOC(Voice of Customer)を手掛かりにカスタマージャーニーに沿って、顧客が自社のビジネスプロセスや提供するサービスのどこに、「痛点」(不満を抱いたり、期待外れだと感じたりするネガティブな体験)を感じているのかを把握し、見直しをすることが第一歩となる。
製品・サービスの性能、機能、品質に対する直接的な評価ではなく、製品・サービスの評価に影響を与える「顧客の体験(FACTベース)」の有無に着目することがポイントで、あくまでも顧客側の(ネガティブな、時にはポジティブな)体験を俯瞰的に把握し、顧客の行動を理解することに徹したアプローチである。
日経リサーチは、このアプローチで調査を実施した。以下では、「素材・原材料・電子部品」と「産業用装置、計測・計量機器、工作機械、制御機器など生産工程機器」という典型的な2つのBtoB系事業サービスを対象にした結果から特徴を対比してみていく。

「素材・原材料・電子部品」では、発注後や納品・デリバリー時に多くの痛点がみられる

図1.「素材・原材料・電子部品」の選定・購買・利用の関与者が最も感じた不満、期待外れ(痛点)

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図1は「素材・原材料・電子部品」のビジネスプロセス(取引先とのカスタマージャーニー)と「痛点」の発生頻度を示したものである。取引が成立した後の「発注後」や「納品・デリバリー時」に多くの痛点が発生していた。
具体的には「納品まで時間がかかった/納期に遅れた」が最も多かった。「素材・原材料・電子部品」を購買した企業は、その製品を自社製品に組み込んで自らの顧客に供給する。そのため、自社の工程に影響を与える体験(=納期)に対して敏感になっているものと推察できる。直近でいえば、世界的な半導体不足で自動車をはじめ様々な電機製品の供給体制が滞ったことが記憶にも新しい。
続いて「価格の妥当性がわからなかった」「問い合わせに対する回答・対応が鈍かった」「サプライヤーの都合で仕様の変更や価格の増額が発生した」「研究・開発/技術などの情報提供が弱かった」といった回答が多かった。

一般的には納品後のアフターサービスやサポートは重要な顧客サービスと捉えられており、ネガティブな体験も多く発生しているのかと考えていた。ところが、調査からは、それほど発生しておらず、むしろ「普段(購買が必要なことが発生していないとき)」の情報提供といった顧客接点で課題が存在していることも認識しておくべきだろう。

「生産工程機器」では、取引先を選定する提案や商談時に痛点が発生

図2.「生産工程機器」の選定・購買・利用の関与者が最も感じた不満、期待外れ(痛点)

C8671_02

次に「生産工程機器」をみていく。図2にあるように、最も高かったのは「素材・原材料・電子部品」と同様の「納品まで時間がかかった/納期に遅れた」と納期に関するネガティブな体験であったことは共通していた。次いで「価格の妥当性がわからなかった」「予算や納期などへの柔軟性に欠けた」「ありふれた情報しか提供してこなかった」「当社からの依頼や要求以上の提案がなかった」が続いている。
「素材・原材料・電子部品」と同様に最も高かった納期に関する痛点を除くと、取引先を決める商談や具体的な提案時に多く発生していた。「生産工程機器」は、自社製品の品質や製造ラインの効率に大きな影響を与えるものである。素材やデバイスとは異なり一度導入したら簡単には変更できない。そうした背景からも、業者の選定、機器の決定までのプロセスが重要になっていると考えられる。

モグラ叩きではなく、先回り対応で新規顧客も獲得

以上の2つの調査事例から分かるのは、商談が発生していない段階から、提案に至る前工程、1つの商談が終了した後、次の商談へのリレーションの過程など、それぞれの事業の特性によって異なるプロセスで痛点が発生していることだ。
自社の製品・サービスを提供していく中で、顧客がどのような体験をしているのか実態を把握できれば、提供側の認識との乖離をなくしやすくなる。1つ1つの不満が顕在化するたびにモグラ叩き的に対処するのではなく、不満体験が発生しないように先回りできるような体制を構築する。既存顧客の維持だけではなく、新規顧客の獲得にもつなげられるよう、顧客の体験価値を向上させる施策をぜひ考えていただきたい。

第2回は、今回紹介した痛点がどれくらい発生し、実際に痛点を体験した顧客が、その後どのような行動しているかを調査データを元に紹介します。

 

調査概要【BtoB企業CX調査】
実施日 2022年5月25日(水)~6月8日(水)
対象者 民間企業に勤務し、取引先種別の選定・購買・利用やその後のサポートを受ける顧客側企業の関与者
対象商材 A)自社製品の製造や設計・開発をするための素材・原材料・電子部品
B)自社製品の製造や設計・開発をするための産業用装置、計測・計量機器、工作機械、制御機器など
C)自社の基幹システム、業務システム(CRM、ECサイト、データベース、アプリなど)
D)融資を受ける金融機関
回答者数 2,532人
調査手法 日経IDリサーチサービスを利用、上記条件に合致した方を対象にしたインターネット調査

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