Case

多様な働き方に対応するグローバルコンプライアンス調査の活用

株式会社ポーラ・オルビスホールディングス

正確なリスク把握のKFSは「すり合わせ」と「情報共有」  
9つの化粧品ブランドをグローバル展開するポーラ・オルビスホールディングス。「コンプライアンス経営の最重要ツール」と位置付けているのがコンプライアンス調査だ。その活用方法を解き明かす。

9.ポーラ・オルビス・ホールディングス

株式会社ポーラ・オルビスホールディングス
コーポレートコミュニケーション室CSRチーム
経営倫理士 有田 賢 氏
※社名・部署・役職はインタビュー当時のものです

マルチブランド戦略ゆえの多様なリスク

弊社は旗艦ブランドの「POLA」をはじめとする9ブランドをマルチ展開する「化粧品ブランドの集合体」だ。我々コンプライアンス部門にすると、「ブランドの数だけ違ったリスクを内包している」とも言え、事業モデルごとに様々なリスクを把握しなければならないことが大きな課題となっている。

さらに、中国、台湾、香港、タイ、豪州、北米に事業所を持ち、グローバル展開も推進しているため、異文化への深い理解が求められる。グローバルビジネスでは思い込みが相互不信を招いたり、失敗の原因になったりする。国・地域による法令や文化の違いは、コンプライアンス活動にも多様性を要求する。

流通網や職場の性質によってもリスクは異なる

他方、流通網の多様化も進んでいる。直営店舗、自社EC(ネット通販)といった独自販売チャネルに加えて、百貨店、免税店、さらには越境ECまで、時代の変化で営業も変化している。
言い換えれば、「事業・職場の性質ごとに全く違ったコンプライアンスリスクがある」ということになる。例えば、ECが主体の事業はパソコンがあればどこでも仕事ができ、残業など過重労働のリスクを発見することが難しくなりかねない。
また、今年90周年を迎える「POLA」事業は元々は訪問販売方式だったが、現在は店舗でエステサービスやカウンセリングを提供することを主体に展開している。こうしたフェース・トゥ・フェースのビジネスでは、お客様と直接接触する場所が問題を引き起こすリスクがある。このように、職場の性質に伴うリスクをきちんと把握する必要がある。

コンプライアンス調査とES調査を同時に実施

ブランド、国・地域、流通の違いによって、発生するコンプライアンスリスクは多種多様であり、それらを把握するために、当社ではグローバル規模のコンプライアンス調査を実施している。「そんな調査が役に立つのか」といった疑問の声が上がることもあるが、我々は次のように説明している。
「企業を取り巻く社会環境は激しく変化しており、これまで表面化しなかった不祥事が次々と明るみに出ている。ビジネスモデルも大きく変わり、現場の経験だけでは対応し切れない課題が増えている。だからこそ、現場で何が起きているかを正確に把握することが従来以上に大事であり、それが事業阻害要因を排除することにつながる。だから、こうした調査は今後ますます重要な意味を持ってくる」
調査は毎年1回、インターネットによる匿名アンケート方式で行っている。対象は当社の全事業所、国内10拠点・海外8拠点の全社員(契約社員や派遣社員を含む)約4000人。人事部門が所管する従業員満足度(ES)調査と、我々CSR担当によるコンプライアンス調査を同時に実施しているのが特徴だ。目的は当然ながら「問題を早期発見し、トラブルを未然に防ぐ」こと。そのために重視しているのが①潜在リスクの把握②経営と現場の認識のすり合わせ③改善計画の精度向上--の3点だ。

“愚痴以上・告発未満”の潜在リスクを洗い出す

1点目の「潜在リスクの把握」では、“愚痴以上・告発未満”の洗い出しが非常に重要だと考えている。そのために必要になるのが「匿名性の確保」だ。我々は仮説を立てる際、自由回答をベースにすることが多い。「そこで何が起きているか」を想像することが大事なのであって、情報の正確性よりもリスクの可能性をどれだけ多くキャッチできるかにこだわっている。数字(定量データ)は仮説の検証作業において「なんとなく」を「確信」に変えるために活用する。
これと合わせて、ES調査とコンプライアンス調査の相関関係にも着目している。定性データと定量データの間には因果関係が多々あり、それを2つの調査から発見していく。
調査で抽出できるリスクにはどのようなものがあるか。代表的なのは①ハラスメント、②不正、③不安、④不信--の4つだ。このうち、ハラスメントと不正は「顕在化しにくいリスク」と言える。一方、不安や不信は「普段なかなか口にできない心理的負荷」であり、これをできるだけ早期に発見することで、不祥事や生産性の低下といったリスクを最小化することを目指している。

優先順位付に求められる「冷静さ」

2点目の「経営と現場の認識のすり合わせ」では、抽出課題に優先順位を付けることが大事なポイント。順位付けする際には「冷静さ」が必要になる。過度に悲観的になる必要はないし、反対に楽観的に過信すると重大なリスクを見逃し、対応が後手に回ってしまう。そのため、自社の結果と日経リサーチのベンチマーク資料とを比較したり、経年変化を調べたりすることが自社の現状と客観的に向き合うことにつながる。
「経営報告の最適化」も重要なポイントだ。同じ事実でも、経営と現場では受け止め方に温度差がある。そのため、経営への伝え方と現場へのフィードバックの仕方には工夫が求められる。同時に、グループ会社のポジションを相対比較するため、組織横断的な経営企画部門への報告の仕方が重要になる。当社の場合は9つのブランド会社の経営企画部門長で構成する「グループCSR委員会」で調査結果を共有している。他社と情報共有することで自社のポジションがわかり、誤解や思い込み、「言い逃れ」を防ぐ大きな効果が期待できる。

精度向上を目指して「人権DD調査」もスタート

3点目の「改善計画の精度向上」のポイントは、複合的な課題の確認だ。当社ではコンプライアンス調査、ES調査に加えて、今年から「人権DD(デューディリジェンス)調査」を同時に実施している。人権DD調査は各部門長を対象に、ハラスメント防止、同一労働・同一賃金の実行など、人権対策の仕組みづくりと実施状況をアンケート方式で聞き取る。この結果とコンプライアンス調査の結果をすり合わせると、管理職と部下の意識ギャップが浮き彫りになる場合がある。
次に、擦り合わせた結果を事業計画にどう落とし込むか。これについても、「グループCSR委員会」で各社の「リスクマネジメント計画書」を発表して情報共有する仕組みを構築している。そして実行可能な計画にするために、四半期ごとに進捗状況を確認している。
今後の課題としては、まず海外事業所での取り組みが挙げられる。言語・文化が異なる海外事業所と信頼関係を築くことは簡単ではない。海外では個人情報の取り扱いなど調査方法にも配慮が必要になる。そのほか、グループの全体感と各社事情のバランスも大きな課題だ。
弊社は難しさを増すビジネス環境の中で、今後とも調査をコンプライアンス活動に有効に活用し、サステイナブルな事業運営を目指していきたいと考えている。 

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