株式会社日経リサーチ
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顧客接点のさらなる可視化を目指して

「日経リサーチ×ABEJA 特別セミナー」講演採録
 ECの普及・拡大や労働人口の減少など、経営環境が大きく変化する中で、小売業が直面する様々な課題を解決に導くデータ利活用のヒントを提供する「特別セミナー ~AI革命でデータ活用が変わる!店舗の経営・マーケティング」が、当社とAI関連ベンチャーのABEJAの共催で4月19日に開かれました。当日のプログラムの中から、当社執行役員新規事業開発担当の池田達哉による講演の内容をご紹介します。
リアルな顧客接点での「カスタマー・エクスペリンス」の数値化
semi6711_01.png 店舗における顧客の見える化 クリックで拡大します
 店舗だけでなくショールームやイベントなども、お客様と直接接するリアルな顧客接点(タッチポイント)だ。それらの場でお客様は色々な体験(カスタマー・エクスペリエンス、CX)をし、それがブランドを形作っている。今までCXの効果は数値化が難しかったが、感情などをAIで測定できるようになった。数値化できればマネジメントも可能になる。

 当社はABEJAとの業務提携をはじめ、AI関連の開発を加速していく。店舗における顧客の見える化はお客様の来店、購入、購入後の評価まで、いくつかのステップに分かれるが、店舗内はカメラやその他のIoT機器で測定できる。カメラやマイク、Wi-Fiセンサー、POSやアプリなど様々なツールとAIを組合せることにより、多くのことが分かるようになる。

 測定データは属性、行動、感情、評価の4つの分野に分かれる。お客様の属性は性・年齢以外にも、子供と一緒かという同行者情報や服装・ファッションのタイプなどもある。当社のデータ融合サービス「ミルフィーユ」を活用すれば、カメラで捉えた来店者の属性から顧客プロフィールの推定、ターゲティングやセグメンテーションが可能となる。

 感情(Emotion)は無意識の活動で、表情、顔の赤み(血流)、声のトーン、心拍数などに表われるが、カメラやマイクなどの機器とAIを組合せて、把握できつつある。一方、評価(Feeling)は意識的な活動で、感情も含め、言葉により伝えられる。これまでのリサーチは評価を聞き出し、感情が司る購入の真の要因をインサイトとして紡ぎ出していた。これからは感情についても表情認識による感情抽出など新しい技術によって手掛かりが増える。
データ収集の課題とデータの分析・活用
池田達哉株式会社日経リサーチ
執行役員 新規事業開発担当
池田達哉
 お客様一人一人を追うためには、全てのデータを連結したいが、実際には課題も多い。お客様にデバイスの装着が必要であったり、所持するスマホにアプリをインストールしてもらったり、というハードルだ。個人情報取得の事前承諾や、匿名情報への加工でも注意すべき点は多い。現実的な解決策としては、データ間の1対1連結ではなく、推定による連携を行い、適度に集計されたデータを用いたほうがよさそうだ。

 では、収集したデータをどう分析・活用するか。まず顧客のフローにおいて、プロセスが進むにつれ脱落していくお客様を減らす手立てを考えたい。どのステップで脱落が多いかを調べ、脱落した人と先に進んだ人の違いを比較し、施策を考えて実行する。店舗間で効果のあった施策などは情報共有できるとよい。大事なのは前月や前年同月といった目標を越えること。最新の技術は、第1週目が終わった時点で、その月全体の売り上げが予測できるところまで開発が進んでいる。AIの時代を迎え、様々な要因を入れて高精度な予測が可能になってきている。
最新の脳科学で見た商品・サービス購入決定の仕組み
semi6711_02.png ニューロサイエンス クリックで拡大します
 ところで、人はどうやって商品・サービスを選び、購入を決めているのだろう。急速に進歩している脳科学(Neuroscience)では、脳を「新しい脳」(Thinking Mind)と「古い脳」(Doing Mind)に二分する考えがある。「新しい脳」は人間らしく理性的に考える脳であり、「古い脳」は古代から動物が受け継いできた体の動きなどを司る無意識の脳だ。そして、購買は「新しい脳」ではなく「古い脳」が95%決定し実行しているという。

 「新しい脳」はまだできて10万年ほどで進化の途中にあり、300万年前から進化し続けた「古い脳」を抑え込めていないのだそうだ。従って、購買において「新しい脳」はほとんど意思決定に関与できず、「古い脳」の判断に従っているだけだという。

 にも関わらず、私たちは商品・サービスを自分で理性的に選んだと考えているのはなぜだろう。それは、実際は「古い脳」が選んだことなのに、「新しい脳」は自分で決めたと考えたくて「選んだ理由」を考え、行動を合理化しようとしているかららしい。それでは、「古い脳」はどうやって意思決定しているのか。それは記憶に基づくという。

 目や耳などに入った短期記憶は、長期記憶へ移される。長期記憶は手続き的記憶と宣言的記憶に分かれる。手続き的記憶は運動やゲームなどの手順に関する記憶であり、宣言的記憶は意味記憶とエピソード記憶の2つに分かれる。意味記憶が知識に関する記憶なのに対し、エピソード記憶はいつ、どこで、誰が、何をしたか、自分の周りでどんなことがあったかという個人的な出来事の記憶である。宣言的記憶でどんなことを記憶しておくか、今まで記憶していた何とリンクさせるかは「古い脳」が無意識にやっているようだ。
売り上げにつながるブランド記憶の確立
semi6711_03.png カスタマー・エクスペリエンス(CX)の数値化 クリックで拡大します
 ブランドに関する記憶は長期に保存される意味とエピソードの記憶である。エピソード記憶は個人的な経験のリアリティーに関する記憶なので、良いイメージでブランドを記憶してもらい、購入の場面において一番欲しいブランドとして浮かび上がってくることが大切だ。無意識に処理されて記憶されるとは言え、上手く工夫して情報を伝え、良い経験を持ってもらえるようにマネジメントしたい。

 これはリアルな店舗の利用経験だけでなく、広告やECにもあてはまる。ブランドにまつわる事柄がお客様に伝わる際に、楽しさやサプライズ(嬉しい驚き)などプラスの感情とセットであれば、記憶してもらえる確率が高まる。あまり強い感情を引き起こさなかった経験も、繰り返し積み重ねていけばブランド記憶は確立されていくだろう。感情などの新しい測定データを手掛かりにブランド記憶を積み上げていくことが、数カ月後、数年後の売り上げにつながる。このことはECの時代には更に重要性が増すのではないか。

 BtoBでもブランド強化が必要だ。これからは営業社員に代わり、マーケティングがブランドの信頼を顧客に伝えていく。施策を立案しても、売り上げに効果がみえないなら実行に移せない。当社は「ある施策は将来の売り上げにどれくらい貢献するか」というROIを予測する方程式を研究している。つまり、CXの施策がどうブランド記憶につながり、その蓄積がこのブランドの商品を買いたいという「トップ・オブ・マインド」に結び付き、将来の売り上げにどうつながっていくかを紐解きたいと考えている。
semi6711_04.png 予測モデルへの挑戦 クリックで拡大します
 商品・サービスの分野によって購入金額と頻度は異なるが、今後3カ月間や3年間といった期間における売上総額などを従属変数に置いて考えていく。ソーシャルネットワークなどでの口コミも定式化したい。まず、AIのモデル作りに欠かせない教師データを準備する。画像などのデータ収集と正解を付与するデータのコーディングは、長年経験してきたノウハウと現在取り組んでいる新しい技術が活用できる。
semi6711_05.png AIモデルづくりの支援 クリックで拡大します
 現状で利用可能な機器やデータを組み合せ、因果関係がみえるKPI指標を用意し、原因を掘り下げられるインタラクティブなグラフを作成する。お客様の運用開始後は、原因と解決策をデータから読み取れるよう支援する。これらはリサーチで培ってきた統計知識とインサイト探究が生きる分野と考えている。

 新しくAIモデルを作ろうとすると、データをどう用意するかとか、アノテーション(正解をデータに付与して教師データを作成する作業)とAIモデル開発の費用と時間はとか、個人情報保護をどうクリアするかとか、気を遣うことが多い。だが、一番の問題は「どれくらい役立つものができるか、よくわからない」ことではないか。日経リサーチは大きな最終目標を定めつつ、今できることから積み上げていきたい。
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