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海外子会社に対するガバナンスのあり方

 海外子会社のガバナンス問題に頭を痛めている企業は多い。筆者はこれまで数多くの不正の事例を見てきたが、最も多かったのが横領(経費・資産の不正流用)である。横領と一言でいっても、コピー用紙の持ち帰りから交通費の不正請求、顧客預金の引き出しまで幅広く、やろうと思えば誰でもできる。横領が頻繁に起きる会社は社員の士気も低下しているので問題だ。一方、発生件数は少ないものの、1件当たりの被害額も、会社の評判へのインパクトも大きいのが不正会計だ。不正会計は部門長以上が主犯であることが多いので、被害額も自然と大きくなる。経営の現地化や海外企業の買収が増える中、今一番注目されるリスクだ。

海外ではなぜ不正が発生しやすいのか?

 筆者は過去の経験から、日本国内よりも海外子会社の方が、不正の発生率は高いと考えている。なぜか?それは国内の不正リスクが海外に比べて相対的に低い理由を考えてみるとわかりやすい。国内では当然ながら管理基盤がしっかり作られているのだが、理由はそれだけではない。それに加えて、管理者が社員と同じ職場にいるので目が届きやすいこと、人事異動が頻繁なので、他の社員の業務もある程度理解でき、社員同士で相互監視ができること、新卒で入社して行動規範を叩き込まれていること、といった不正を起きにくく、発見しやすくする環境がある(もちろん、コンプラより業績が重要だと教えている企業もあるのだろうが)。つまり、公式な管理基盤以外のソフト面の要因が不正抑制に一役買っているのだが、海外ではこのようなソフトなガバナンス機能を期待することは難しいのが現実だ(ただし、自前で海外子会社を設立して海外進出し、数十年が経過して、設立当時に採用した現地社員が管理職になるくらいに成熟した海外子会社などは例外だろう)。

 

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買収した会社のガバナンス~信じるだけでは救われない

 買収した会社を管理するのは、自社の海外子会社よりもさらに難しい。買収相手の本社ならまだしも、その海外子会社となると、何から手をつけていいのか戸惑うだろうが、買収直後の対策と長期的なガバナンス体制の構築法を紹介するので参考にしていただきたい。
 
まず、M&A直後に不正を見抜くための対策を2つあげる。

 1つは買収後できるだけ速やかに相手企業に自社の経営陣や経営スタッフを派遣または赴任させることだ。改革が必要な状況では、できれば(代わりがいれば、だが)、前任者には退職パッケージを提供してやめてもらう。いきなり刺激的なことを言うようだが、これは欧米企業によるM&Aでは普通にあることだ。前任者は新しい経営方針に反対するか、反対する社員を擁護する立場をとることが多いので、そういう場合は遅かれ早かれ退任は避けられないし、自らが不正の核心にいることもある。ところが、ある国際弁護士によると、子会社の経営陣の入れ替えを提案しても、日本では「親会社の現経営陣を信頼していないと思われるのを嫌がる経営者が多い」のだそうだ。しかし、信じる信じないや面子の問題より、優先すべきは不正により甚大な損害を被らないようにすることだ。M&A直後であれば、監査の瑕疵を申し立てることができるが、何年も放置しておいた場合、何かあっても後の祭りだ。不正問題だけではない。買収した事業が実は想定ほど有望ではなかったのに気付かず、手を打つのが遅れることもある。現地社員がM&A直後にごっそりやめてしまい、その際に顧客を持っていかれた、ということも海外ではある。相手企業の営業チャネルを使って自社製品を拡販するという当初のM&Aの目的を達成できないまま、数年経ってしまった、というケースとなるともっと多いのではないか。相手企業の経営トップをコントロールする自信がなければ、ガバナンス機構に大きな穴ができると思っておいた方がいい。

 2つ目のM&A直後の対策として、全社員に向けた自由回答つきの従業員調査をあげておく。大切なのは、自由に回答してもらうことだ。調査によって、現場が抱えている問題や社員の考え方を把握することができる。特に、相手企業の経営状況が良くない場合は、隠されていた問題があぶりだされる可能性が高い。

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海外子会社のガバナンスは簡単なものから順々に

 次に抜本的なガバナンス体制を構築する方法について、ハード面とソフト面で合計8つのアプローチがあるので、それをざっと紹介しておく。どうも日本企業はソフト面のアプローチを好む傾向にあるようだが、難易度が低く、実施コストが小さいハード面から、ソフト面へと順番に導入していくのが現実的だ。

 ハード面では①レポートラインの変更(事例:海外拠点のトップ職を廃止し、現地部門から本社事業部へダイレクトにレポートさせる)②意思決定範囲の変更(事例:大口顧客の受注承認を本社で行う。部長以上の採用は本社で承認する。経費項目によっては本社の承認を必要とする)③マニュアルや業務手順の変更(事例:受注契約の承認手順をグローバルで統一する)④事業計画、予算計画など計画行為の統一(事例:年1回から四半期ごとへと計画サイクルを短縮する)⑤定期報告体制の整備(事例:業績報告や営業レポートのシステムをグローバルで統一して導入する)があげられる。

 ソフト面では⑥横断的な協働作業(事例:日系グローバル企業の海外子会社との取引獲得のため、共同プロジェクトチームを設置する)⑦人事交流(事例:入社3年目の若手社員を1年間互いに相手企業に派遣する、買収先の開発部隊へ優秀な日本人技術者を長期派遣するなど、心理的にも業務上の必要性の点でも相手が受け入れやすい部署・職種を交流させる)⑧経営目標や行動規範を浸透させるための制度の導入(事例:従業員意識調査を毎年行い、調査結果をもとに研修を実施する。本社教育センターを設置し、グローバル共通の研修を企画導入する。人事制度をグローバルで統一する)。

 これまで、海外子会社のガバナンスを駐在員なり、相手企業の信頼できる経営陣なりに委ねてきたのが日本企業だった。しかし、人依存のガバナンスには限界がある。国内よりはるかに複雑で困難な海外子会社のガバナンスのためには、組織体制や業務プロセス、人材交流や企業文化によるコントロール手段などを総動員して取り組まなければならない。

以上

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森 範子

オフィス・グローバルナビゲーター代表nmori
銀行シンクタンク、外資系コンサルティング会社、日系メーカーの人事部長を経て、現在、オフィス・グローバルナビゲーター代表。海外人事に関するコンサルティングを行う。

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