株式会社日経リサーチ

コロナ危機と政治家のリーダーシップ調査
東京、大阪など3知事に高評価

早稲田大学 政治経済学術院教授 河野 勝


 政治家のリーダーシップは、いわゆる「平時」ではなく、現下の新型コロナウィルス感染拡大のような一大危機が国家に迫る時にこそ真価が問われる。人々は自らの生命や財産、あるいは社会の秩序と安定が脅かされると、自分たちが選んだ政治リーダーに対し、危機を乗り越えるための指針や希望を示してほしいと期待する。そこで問われるのは、具体的には、的確な状況判断、大胆かつ迅速な意思決定、その決定の根拠と経緯について説得力ある情報発信する能力、さらには自らが下した決定について責任を取る覚悟が感じられるか、といった要素であろう。今まさに、日本国民は安倍晋三首相をはじめ政府や自治体の要職にある政治家たちを見比べ、こうしたリーダーシップの資質がどれだけ備わっているかを静かに、そして冷徹に、品定めしている。
 日経リサーチは4月23日~27日に「コロナウィルス感染拡大に関する意識調査」と題する調査を実施し、その中で日本の政治リーダーたちに対する評価をたずねた。以下、この調査結果から明るみになったいくつかの興味深いポイントを報告する。調査はインターネットを通じて行われ、日本全国の16歳から79歳までの男女合わせて2079人から有効回答を得た。
 政治家のリーダーシップについての質問は「新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐうえで、重要な職にある政治家たちはリーダーシップを発揮してきたと思いますか。次にあげる政治家について、満点を10点、及第点を6点として、それぞれ0から10で評価してください」とたずねた。対象とした政治家は(括弧内に示した肩書き付きで)以下の7人である。
 
安倍晋三(首相)
加藤勝信(厚生労働大臣)
西村康稔(経済再生担当大臣)
小池百合子(東京都知事)
吉村洋文(大阪府知事)
鈴木直道(北海道知事)
枝野幸男(立憲民主党代表)
 まず、安倍晋三首相のリーダーシップに対する評価を見てみよう。表は回答者が選んだスコアの分布を示したものである。
表:安倍首相のリーダーシップの採点スコア分布
採点 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
回答数
(%)
439
(21.1)
158
(7.6)
180
(8.7)
230
(11.1)
144
(6.9)
334
(16.1)
189
(9.1)
167
(8.0)
135
(6.5)
57
(2.7)
46
(2.2)
(計2079人)
 この分布によると、安倍首相に対する評価は平均が3.76点と計算され、極めて厳しい結果となった。及第点である6点以上の評価をした回答者は全体の28.6%に過ぎず、7割以上が安倍首相に対して「落第」の評価を下した。しかも、表によれば一番頻度の高かったスコアは「0」である。実に多くの人が安倍首相はこの危機を乗り越えるうえでリーダーシップをまったく発揮してこなかった、と断じているのである。
 もちろん、安倍首相に対する評価は、他の政治家たちのリーダーシップに対する評価との比較の中で、位置付けされるべきであろう。図1では上記7人の政治家すべてについて、評価の平均値(および標準偏差から計算した95%の信頼区間)を整理して図示した。
図1:政治家7人のリーダーシップの評価比較
図1
 このグラフからは、いくつもの興味深い点が浮かび上がる。第一に、安倍首相に対する評価は政府のもう2人の閣僚、すなわち加藤厚生労働大臣(平均3.62点)と西村経済再生担当大臣(3.76点)に対する評価と、ほとんど変わらない(信頼区間が重なり合っているので統計的に区別できない)。コロナウィルス感染拡大への対応をめぐって人々は、安倍内閣全体に対して極めて低い評価を下していることがわかる。
 第二として、対照的に小池百合子・東京都知事、吉村洋文・大阪府知事、鈴木直道・北海道知事の3氏は首相や大臣二人を大きく引き離し、それぞれ高い評価を得ている。小池氏のスコアは及第点にわずかに及ばない5.85点だが、吉村氏と鈴木氏のスコアは及第点を明確に超えて6.62点と6.73点である。全国の自治体首長の中で、とりわけ小池、吉村、鈴木の3氏は地元だけでなく全国メディアへの露出も多い。自らの言葉で頻繁にメッセージを発信していることがリーダーシップの高い評価の背景にあると思われる。
 第三に、立憲民主党の枝野幸男代表のリーダーシップについては、政府の3人よりもさらに一段と(統計的に区別されるように)低いスコアとなっている。首相と関係閣僚2人のリーダーシップが著しく低い評価しか得ていないのに、野党第一党の党首である枝野氏は7人の中で最低の評価となっている。多くの人々にとって、立憲民主党が政権を担うべき政党として認知されていないことを象徴的に物語っているといわねばならない。
 今回の調査からは、国政を担う政府も野党第一党もともに低い評価しか与えられない一方で、何人かの地方自治体の首長に高い期待が寄せられるという明快な構図が浮かび上がってくる。気にかかるのは、はたして国民は「コロナ後」の政治を見据え、この後者の政治家たちを安倍政権や自民党へ対抗する新しい政治勢力として位置づけているのかという点である。
 残念ながら今回はこれを直接たずねていないが、参考までに、安倍首相のリーダーシップに対する評価と小池都知事のリーダーシップに対する評価との相関係数を調べてみた。すると、負の相関関係にはなく、むしろ緩やかな正の相関(r=0.33で1%レベルで統計的に有意)を描くことが見て取れる。この傾向は、安倍首相と吉村および鈴木両知事との相関をとった場合も同様であった(それぞれr=0.27とr=0.21でともに1%レベルで統計的に有意)。こうした結果をふまえると、これら知事たちに対する期待はコロナ危機への対応という文脈の中で高まっているものの、少なくとも現時点では、国政における新しい対立軸を形成するまでには至っていないように筆者には思える。
 3人の知事に対する人々の評価をもう少し深掘りして分析してみたい。3人の中では、小池氏への評価が他の2人への評価より、若干劣っているという違いがある。しかし、そのほかの点でも、小池氏のリーダーシップに対する評価と吉村・鈴木両氏のリーダーシップに対する評価には、微妙だが重要な違いが見てとれる。
図2 世代別のリーダーシップ評価
図2
 図2は回答者を年代別に分けて、3人の知事に対する評価の平均スコアを比較したものだ(安倍首相の平均スコアも参考までに入れた)。吉村氏と鈴木氏のリーダーシップに対しては、どちらも年齢とともに評価が上がるという一貫したパターンを描いている。この二人の知事については、一般に若々しく颯爽としているというイメージが定着していると思われるが、意外にも年齢が上の回答者の方が若い世代の回答者よりも、より高い評価を下している。
 小池氏に対しては10代の回答者のスコアがもっとも高く、20代と30代で及第点を割り込み、それからまた年齢が上がるにつれて評価も上がっていくという非直線的な傾向を描いている。小池氏は他の2人と異なり、国政で複数の大臣ポストを務めたほか、かつていくつかの新しい政党の立ち上げにかかわり、豊富な政治経験を積み重ねてから知事になった。小池氏については回答者が首長としてだけでなく、過去の政治キャリアの様々な側面を覚えていて印象やイメージを形成しているはずである。そうした印象やイメージは世代によって異なり、それがリーダーシップの評価の形成にも複雑に影響を与えているのかもしれない。もっとも、世代ごとに回答者を分けた分析は各サンプル数が小さいため確かなところはわからない。
図3
図3
 図3は、それぞれが首長を務める自治体に居住する回答者とそうでない回答者とを分けたうえで、3人の知事のリーダーシップに対する評価を比べ直してみたものである。東京都知事である小池氏に関しては、東京に住んでいようがいまいが、評価に差がないことがわかる。この傾向には、メディアを通して東京都の動向が他の道府県の動向よりも注目を浴びやすいこと、さらには小池氏が(国政の経験などから)すでに全国的に知られた政治家であることなどが反映していると考えてよいであろう。
 注目すべきは、鈴木氏と吉村氏に対する評価のパターンである。この2人のリーダーシップについては、共通して地元民である回答者の方がそうでない回答者に比べて(統計的に有意に)高い。つまり少なくともコロナ危機への対応という文脈においては、その対応ぶりをより正確に知ることのできる人々がより高い評価を下しているのである。このことから、筆者には2人の政治家がさらにナショナルフィギアとなっていく「伸びしろ」とでもいうものをまだ多く残しているのではないか、と思えるのである。
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